320万部「女性の品格」は、こうして生まれた

上司の「誘い水」が優秀な部下を育てる

私自身のPHP研究所時代の経験もお話ししましょう。

なかなかベストセラーになるような企画が出てこないときの話です。担当責任者は大いに悩んで、私のところに話をしにきました。松下さんから「世のため人のためになる本で、売れる本を出せ」という指示ですから、売れるだけの本ではいけない。その内容が世の中に役立つ、人々に役立つものでなければならない。

そういうことですから、なかなか2人で話していても、すぐには適切適当な企画が出てこない。そのまま、次の予定の会合に出席しましたが、そこで坂東眞理子氏(現・昭和女子大学理事長)とお会いしました。

「女性の品格」誕生秘話

旧知の仲でしたので、立ち話をしているうちに、そうだ、この人に「女性の品格」ということで書いてもらおうと思いつき、お願いしました。初めは「品格なんて、私には書けない」などと言われていましたが、数日後、担当責任者を行かせて、あらためてお願いし、書いていただきました。それが『女性の品格』で、この本は320万部の大ベストセラーになりました。ところが、この本が1つの「誘い水」となって、担当者が次から次へ、いい企画を考え出すようになり、その後、新聞の週間ベストセラー10点のうち4点も入るという状況になり、出版活動は活況を呈することになりました。

いろいろと「誘い水」の例を、誤解を恐れず書き記してきましたが、もちろん「誘い水」も大事ですが、「誘い水」を「ものにする受け手の能力の高さ」も求められることは言うまでもありません。「誘い水経営」とは、いわゆる「啐啄(そったく)同機」、「誘い水」を向ける側と「誘い水」を受ける側の双方が呼応する状態にならなければなりませんが、少なくとも社長たる者、上司たる者は「たとえば……」ということで、部下に話をする。

「誘い水」を向ける。その「誘い水」を出せるか出せないか。そこに社長なり、上司なりの実力が示されるということです。最終の戦略、最終の企画は、社長が、上司が決めるとしても、その戦略なり、企画を社員や部下が自ら考え出す。それによって、毎年の会社の成長発展が実現していく。社員もますます成長し、実力をつけていく。実践的専門家になっていく。

とはいえ、やはり順番からすれば「誘い水」を出す側、すなわち社長なり、上司なりの実力、センスがまず問われることは当然です。そのような「誘い水」を出せない社長、ヒントを出せない上司ということであれば、実力もセンスもない社長であり、上司であるということ。そのような上司、社長にその資格はありません。

繰り返しますが、なにごとにも「誘い水」も出せないままに、社員を、部下を怒鳴りまくる社長に至っては最低最悪、即刻お辞めになったほうがいいというのが、私の結論であると申し上げておきます。

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