都議選の結果は日本株にどう影響を与えるか 自民党内部の「2つの勢力争い」に注目

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2018年と想定される改憲の国民投票を念頭に置いた次の衆議院議員総選挙が、安倍政権の命運を決める戦場となるとみられるが、それまでに、安倍官邸の「巻き返し」を含めて政治の風向きが変わる可能性が十分あると筆者は考えている。

自民党内の「2つの勢力」に注目

これまでもコラムで述べているが、最大野党である民進党からは、国民の信頼を得るに足る経済政策などの提言はほとんどみられていない。このため、今後の経済政策の方向を考えるうえでは、やはり自民党内の政策議論がより重要になる。その意味で注目されるのは、5月16日に自民党の議員によって「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」が開催されたことである。これには、野田毅・前自民党税制調査会長、中谷元・前防衛相、野田聖子・元総務会長、村上誠一郎・元行革担当相らの自民党の大物議員が参加している。

さらにブルームバーグなどの報道によれば、6月15日の2回目の会合では、石破茂元幹事長も出席しており、勉強会では、日銀の金融緩和政策に批判的な経済評論家が講師として呼ばれた。石破氏は、「日本が迎える状況は極めて危機的」「侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が行われるのは当たり前だ」と述べた。

過去4年以上にわたる日銀の金融緩和政策の効果・恩恵は大きかったと筆者は投資家の立場で考えているが、安倍官邸と距離を置く自民党議員らは、アベノミクスに対して今後批判的なスタンスをあらわにしていく可能性がある。なお、2回目の会合には40人前後の議員が参加したという。

一方、これと対照的な勉強会も自民党内で行われている。「日本の未来を考える勉強会」で、安藤裕衆議院議員が呼びかけ人となり、2回生の議員が参加者の中心となっている。この勉強会において、「民間投資を補う財政出動を絞れば経済が低迷し、税収減で財政がかえって悪くなる」「財政黒字化目標の代わりに、毎年度の当初予算の増額幅を2兆~3兆円に抑えることを目安にすべき」「教育費の負担軽減に充てる教育国債の発行も許容される」「消費税については増税凍結だけでなく5%への減税も視野に入れるべき」などの提案がまとまり、27人の議員の賛同が得られたとも報じられている。

やはり前回コラムで紹介したが、消費増税に慎重であり、財政支出拡大を安倍首相の前で提言したジョセフ・スティグリッツ教授らの意見を、安倍政権は重視しているとみられる。こうした若手議員による提言は、アベノミクスを徹底する官邸の政策姿勢が、党内の一定の政治勢力として顕在化していると位置づけてもいいのではないか。

官邸そして連立与党政権が、小池都知事や野党からの批判に対峙していくことになるだろうが、その過程で、財政・金融政策動向に影響を及ぼす可能性は低い。これまでどおり、労働市場を改善して賃金上昇などで景気回復の恩恵を広げるために、成長率を押し上げる政策を徹底するということになる。下がっている支持率を保つためにも、そうした政策を進めることが優先されるだろう。

ただ、自民党の中で、安倍首相の改憲をめぐる姿勢、また先の勉強会に参加するアベノミクスに批判的な勢力が自民党内で増えれば、追加財政政策など成長刺激政策に対する期待が今後低下するかもしれない。一方、拡張的な財政政策を求める若手勉強会に参加する自民党議員の声が大きくなれば、それは財政政策転換の追い風になるだろう。これらの風向きがどちらに転じるかを、筆者は投資家の立場で注目している。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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