子どもの「精神障害」はかなり誤解されている 児童精神科医・滝川一廣さんが語る「歴史」

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――実は自閉症と言われたり、知的障害と言われたりする、発達の遅れた子どもたちはそうではない子どもたちに比べ、不安や緊張の高い、孤独な世界を生きていると本書は指摘します。私たちは意味や約束を通して、この世界をほかの人々と分かち合い、職場の世界、家族の世界、友だちの世界、それぞれ意味が異なる何層もの世界を行き来している。ところが、認識の発達の遅れは、人々のもつ共同の世界へ参入を難しくする。子どもたちの逸脱や問題行動のわけを探っていくと不安や緊張の問題に行き当たると。

社会の側からみているとわからないかもしれませんが、知的に低ければそれだけ孤独です。孤独では生きていけない。

診断名がつかないから様子を見ましょうというのではなく、発達分布図の、今どの辺りをその子どもが歩いているのかを知り、遅れているところを支え、伸ばすことに留意した子育てのかかわりをさっそく始めてほしい。1回限りの人生ですから。

虐待を防ぐには孤独に育つ子どもを減らすことが重要

――私は子どもを虐待死させる親たちの取材をしてきました。こうした親の子ども時代は本当に孤独です。人を信じる力も弱い。

そうでしょう。いかに孤独に育つ子どもを減らしていくかが、虐待を防いでいくことになると思います。人を信じる力を育てるには、実際に人とかかわらなければ。人とかかわって安心する、助かったという体験を重ねて、初めて人とかかわる力が出てくる。

もともと子育ては、大変な仕事です。親がうまく育てられなかったり、子どもがちょっと育ちにくいハンディを持っていたり。ゆとりを持って子育てをする生活基盤が脆弱だったり。子育てがうまくいかないのは、親だけの責任ではないということがみえにくい。

子育てが大変な赤ちゃんはいくらでもいます。なかなか泣きやまない赤ちゃんとか、ミルクを飲ませてもすぐ吐いてしまう赤ちゃんはいっぱいいる。

生活基盤にゆとりがあれば、子どもが夜泣きをしても根気強くかかわり続けることができます。トイレトレーニングもじっくりかかわれる。でも、いくつかの悪条件が重なると、どうしていいかわからなくて、赤ちゃんをたたいてしまったり、揺すぶってしまうということが起きます。

人とかかわれない不幸を「虐待」と名付けてバッシングするだけではダメなんですね。

次ページ摘発型の虐待防止では、子育ての失調は防げない
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