子どもの「精神障害」はかなり誤解されている 児童精神科医・滝川一廣さんが語る「歴史」
――知的障害、自閉症スペクトラム、学習障害、ADHDなど、多様なものと考えてしまう。でも、本書では精神障害とは「人とのかかわりにおける、なんらかの直接的な困難な苦しみとして現れるとする」と規定しています。
昔のほうが大人として身に付けなければいけない力は単純でした。生産活動が何より重要で、生きることで精いっぱい。それに必死にならないと、飢饉が起きた。生産活動に直接関係しない対人能力や社会性は、一部の人以外、それほど重要ではありませんでした。
子どもたちについても、今ほど手をかけなくても育てることができた面がある。畑仕事に連れて行って、寝かせておいたり、遊ばせたり、手伝いをさせたり。大人の生活圏と子どもの生活圏も今ほど分かれていませんでした。
子どもたちはその中で14~15歳になれば大人としてやっていけた。性的に成熟すれば、そのまま大人になれた。
ところが戦後、中学が義務教育となり、子ども期が15歳まで延びました。さらに、1970年代になり9割以上のティーンが高校に行くようになり、子ども期はさらに18歳まで延びました。大人の生活圏と、子どもの生活圏は分けられました。
性的に成熟しても社会的には大人になれない。そこから、思春期問題が始まりました。
日本で思春期研究の本が初めて書かれたのが、1972年です。私が児童精神科医として働き始めたのは1975年ですが、このころは思春期に関する論文が花盛りでした。私が最初に書いた論文は摂食障害についてです。
人の孤立が進んでいる
――産業の変化とともに、生活の場が人々の暮らしの共同体ではなくなった。人の孤立が進んでいます。
子育ては昔に比べ手厚くなっています。手薄な子育てより、手厚いにこしたことはありませんが、親が孤立して、狭い世界の中で子育てが行われている。親が何らかの形で、力を失えば、一気に手厚い子育ては不利になります。それが今、虐待と呼ばれるものではないでしょうか。
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