グローバリゼーションは格差をもたらしたか

エレファントカーブが予測する未来とは?

グローバルな所得不平等についての長年にわたる研究に基づく本書は、グローバリゼーションがどのように進行し、世界に何をもたらし、格差にどのような影響を与えたのかを豊富なデータで示している。著者は、「グローバルな不平等を読み解くことは、世界の経済史を読み解くことに外ならない」と説く。この本を読むことは、世界経済の変遷をこれまでとは異なる視点から眺める新たな体験となるはずだ。『21世紀の資本』で世界の不平等議論を席巻したトマ・ピケティも「各国間と各国内の不平等を、これ以上ないほど明確に語ってくれる」と本書を評している。ピケティとは違い、資本ではなく所得にそのフォーカスを当てていることも、本書の特徴の一つである。

グローバルな課題として不平等を取り扱う

『大不平等――エレファントカーブが予測する未来』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

国内問題としてではなく、グローバルな課題として不平等を取り扱うことは、比較的新しいテーマであるという。つい最近まで、世界の全個人の所得水準を明らかにするようなデータがどこにもなかったためだ。この10年で、多くの国の家計調査データが研究者の手に届き始めた。著者は、この本で語られる結論がどのように入手された、どのような特徴を持つデータに基づくものかまでをも丁寧に解説しているので、この分野になじみのない読者でも、十分にその議論を追うことができる。著者は、歴史という時間軸と地理という空間軸を目いっぱいに広げてデータを駆使することで、不平等の真実に迫っていく。

データの海に溺れることなく分析を進めるために著者が用いるロジックは、クズネッツ仮説に対する不満から生み出された。クズネッツ仮説では「不平等は所得水準が非常に低いときには小さく、経済発展とともに拡大して、最後には所得水準の高いところで再び縮小すると」している。豊かな国々での再びの格差拡大によってクズネッツ仮説の欠点は明らかになったにも関わらずこの仮説が使われ続けてきたのは、最近の格差拡大を説明するよい代替理論がなかったためだと著者はいう。そこで、著者はクズネッツ仮説を拡張した、クズネッツ波形によって格差の拡大・縮小を理解しようと試みる。

クズネッツ波形では、格差の拡大と縮小は一度きりの現象ではなく、繰り返し発生するサイクルであると考える。多くの時代、多くの国のデータから、確かに格差の拡大・縮小のサイクルが確認できる。ここで注目すべきは、どのような力が格差を拡大・縮小させているのかという点だ。本書では、疫病や戦争のような悪性の力から無償教育や医療などの良性の力まで多岐にわたる要素が、格差に影響を与えていることが明らかにされていく。過去の格差サイクルとその要因を知れば、これからの格差の行く末をよりよく見通すことができるはずだ。

個人の所得を起点に考えれば、国内の不平等よりも、国家間の不平等のほうがはるかに大きい。これは、ある国の中でどのような階層に生まれるかより、どの国に生まれるかのほうが個人の所得への影響が大きいことを意味する。成長から取り残され自国内の富裕層に怒りの矛先を向ける先進国の中間層は、貧しい国々の人々がどれほど努力しても手に入れることのできない「市民権プレミアム」を持っているのだ。このプレミアムを追い求める移民は、グローバリゼーションとはきっても切れない存在である。著者は、国家がどのように移民を扱うべきかについても議論している。そこには、市民権を有・無の二値でとらえるのではなく、市民権を段階的に開放しようという提案も含まれる。

グローバルな格差の問題は実に複雑で、一度に全てを解決することなどできない。先ずは、やっとその実態が明らかになり始めた格差の正体を知ることから始めるしかない。本書は、国家とは何か、平等とは何かをファクトベースで考えるよい起点となるはずだ。

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