トランプのパリ協定離脱で深まる分断と孤立 市長や州知事、企業がパリ協定の推進を表明

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保守派のシンクタンクであるケイトー研究所のパトリック・マイケルズ氏は、「パリ協定からの離脱は正しい方向への第一歩である」と語っているが、パリ協定からの離脱は多くの国民から喝采を得ているとはいえない。

トランプ大統領のパリ協定離脱声明を受けて、同日、ワシントン州のインスリー知事、ニューヨーク州のクオモ知事、カリフォルニア州のブラウン知事は、パリ協定の目標を達成するために「United States Climate Alliance」を結成するという声明を発表した。さらに6月3日、マサチューセッツ州のベーカー知事も州連合に加わる意向を明らかにした。

ブルームバーグ前ニューヨーク市長もパリ協定実施を目指すグループを結成する意向を明らかにしている。6月1日現在で、市長30名、州知事3名、大学学長80名以上、企業100社が、グループに加わっている。ブルームバーグ氏は「市や州、企業は、オバマ大統領が設定した2025年までに温室効果ガスを2005年のレベルより25%削減するという公約を達成し、それ以上の成果を上げることができる」と語っている。州政府は独自に排出ガス規制を設定することができる。連邦政府とは別に"パラレル・プレッジ(平行した協定)"を行い、国連と協調する案も議論されている。

また、トランプ大統領の決定は、大気浄化法に反するとして、訴訟を準備している民間団体もある。来年の中間選挙を控え、国内ではパリ協定離脱が大きな政治問題化する可能性もある。

孤立主義から信頼も指導者の地位も失う

国際的な反響も無視できない。EUや中国はトランプ大統領の決定を非難し、米国抜きでパリ協定の実施を進めると主張している。トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、明らかに米国の孤立を招く事態になっている。単に政策的な違いに留まらず、米国が戦後果たしてきたモラル・リーダーとしての信頼も間違いなく失っていくだろう。

G7の後、ドイツのメルケル首相は、「ヨーロッパはもはや米国に依存することはできない」と極めて厳しい口調で語っていた。戦後の世界システムは、アメリカのリベラルな政策と制度に基づいて構築されてきた。それが世界における指導者の地位をアメリカに与えていた。だが、アメリカの孤立主義への傾斜は、そうした指導者としての役割を確実に奪っていくことになるだろう。

トランプ大統領はまだ学習過程にあると言われる。政府を企業のように運営するというのがその主張であった。だが、中小企業のワンマン社長のやり方では一国を導くことはできないのは自明である。アメリカが深刻な危機に直面しつつあることは明らかだ。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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