トランプのパリ協定離脱で深まる分断と孤立 市長や州知事、企業がパリ協定の推進を表明
ただ、EU(欧州連合)などは、パリ協定の再交渉には応じないという立場を明らかにしている。トランプ大統領はNAFTA(北米自由貿易協定)離脱を主張して、最終的にはメキシコとカナダに再交渉を同意させた例もあるが、"恫喝"で再交渉を迫る戦術はここで使えるとは思えない。
トランプ大統領の演説は、繰り返しが多く、極めて歯切れが悪いものであったが、それ以上の問題は、離脱の根拠が極めて希薄なことだ。トランプ大統領は「パリ協定で約束した温室効果ガス削減目標を実施に移せば、米国は大きな犠牲を強いられる」「2025年までに270万人の雇用が失われ、2040年までにGDP(国内総生産)3兆ドル、650万人の雇用が失われる」と語った。こうした数字は「National Economic Research Associates(NERA)」という民間のマーケティング会社の調査によるものだが、米国政府がパリ協定離脱を正当化する根拠にするには、極めて信頼性の低いものである。
MITからは「誤った引用」と抗議される
さらに大統領演説の際にホワイトハウスは、温室効果ガスの削減目標が達成されたとしても2100年までに温度を0.2%しか低下させることができないというMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究「How Much of a Difference Will the Paris Agreement Make?」に言及し、「パリ協定によって気温を下げる効果は無視できる程度のものだ」と説明している。だが、これに対してMITの研究者は、トランプ大統領は研究結果を間違って引用しているとし、「私たちはパリ協定からの離脱を支持できない。研究結果では、何の削減努力もしなければ温度は5度以上上昇することになる」と批判している。それ以外にも事実の誤認と歪曲は数多くあり、パリ協定離脱という重要な決定を行うにしては、あまりにもお粗末な論拠である。
仮に米国がパリ協定から離脱しても、手続き上、正式に離脱が認められるのは早くても発効から4年の2020年11月となる。アメリカのメディアは、正式に離脱が承認される時には新しい大統領が誕生しており、もし民主党の大統領なら離脱を取り消すこともできると指摘している。
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