アマゾンは、メディアで稼げるか? ベゾスの「メディア改造計画」を予測する
現在のウェブメディアを見ると、自社系列のコンテンツのみを掲載するグループ(大半の伝統的メディア)と、コンテンツは自分でつくらずプラットフォームに徹するグループ(ポータルや大手ネット企業)の2種類に分かれている。
たとえば、グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾンのネット4強は、自らコンテンツを作らず、プラットフォームに徹する戦略をとってきた。日本のヤフージャパンも同じだ。しかし今回、アマゾンは自らコンテンツメーカーをもつ戦略へと舵を切った。
ただし、正確に言えば、アマゾンはすでにコンテンツメーカーの機能を持っている。2009年に始動したアマゾンパブリッシングでは、プロの編集者を雇い(現在26名が所属)、アマゾンが本の企画、編集、流通、マーケティング、PRまで束ねている。昨年には、オリバー・ペチュのミステリー小説「首斬り人の娘」が初のミリオンセラー(紙、電子版、オーディオ版の合計)となった。またベゾスは個人として、新興ビジネスウェブメディアである、「ビジネスインサイダー」に500万ドルを出資している。今回のワシントン・ポスト買収によって、アマゾンのコンテンツメーカー機能は一気に高まる。
これまでのネットメディアは、「テクノロジーには秀でているが、コンテンツ作成力が低い企業」と「コンテンツ作成力は高いが、テクノロジーが弱い企業」のどちらかだった。しかし今回の買収で、「一流のコンテンツメーカー+一流のネット企業」という組み合わせが生まれる。
それによって、アマゾンには新たな可能性が開けてくる。
アマゾンが直接ジャーナリストを雇う?
今のネットメディア業界に欠けているのは、オリジナルコンテンツを軸にしながらも、他社のコンテンツをアグリゲートしていくメディア(現在の米ハフィントン・ポストはこれに近い)、そして、有料記事を集めてアグリゲートするニュース版iTunesのようなサイトだ(日経テレコンがこれに近いが、ニュースサイトというよりデータベースサービスに近い)。
アマゾンは、その両方を実現できる可能性がある。
アマゾンが書籍のプラットフォームとなったように、アマゾンのサイトが、あらゆる分野のニュースを購入するプラットフォームになるかもしれない。
たとえば、定額式のサブスクリプション方式で、アマゾンに月2000円払えば、有料コンテンツも含めて読みたい放題、しかも、自分にあったニュースがパーソナライズされるといったイメージだ。当初はワシントン・ポストの限られたコンテンツでのスタートになったとしても、そこで高い広告料金と購読料を得られることがはっきりすれば、他のメディア企業も喜んでコンテンツを提供するようになるだろう。
さらに、そうしたニュース版iTunesができあがれば、次にはメディアすらも中抜きし、ジャーナリストを束ねたiTunesができるかもしれない。つまり、ジャーナリストがアマゾン向けに記事を書き、その人気などに応じて、アマゾンから対価が支払われる仕組みだ。現在、アマゾンパブリッシングや、キンドルシングル(1万字〜3万字程度の短めの記事を販売するサービス。米国では400万本以上がすでに販売)で行われていることの発展形と言える。
今でも、ブロガーの記事などを束ねたアグリゲートサイトはあるが、情報が多すぎる上、クオリティーの差が激しい。そのため、課金や広告収入増に苦しんでいるのが実情だ。こうしたサイトと差別化するためにも、アマゾンは一流のニュース編集者を雇い、ジャーナリストや書き手を厳選するのが得策だろう。
ジャーナリストにとっても、アマゾンの持つ読者へのリーチは魅力的だ。一流の編集者の下で働ける上、対価も既存メディアより高いとなれば、一流のジャーナリストを引き寄せることも無理ではないだろう。メディア業界の低迷により、ジャーナリストの給与相場は落ちている。先行投資を惜しまなければ、ジャーナリストのドリームチームを作ることもできるはずだ。