銀座「食パン専門店」に行列する人のお目当て 国産小麦の実力はどこまで向上したか

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Tさんは、客が安心して食べられるパンを売るため、総菜パンなどの具材も手作りし、自家培養した野生酵母(天然酵母)を使う。そして、ほとんどの材料を国産にしている。しかし、地元の人が毎日食べられる価格帯にするには、国産小麦の割合は全体の半分に抑えなければならなかった。「うちで、北米産小麦を使った食パン1斤は247円ですが、国産小麦を使うと400~500円になってしまう」と話す。

Tさんは、無農薬野菜を使うなど食材に気を使う家庭で育ち、菓子パン・総菜パンの具材を手作りし、国産小麦にこだわる店で修業。だからこそ、外国産小麦を輸入する際に使われる「ポストハーベスト農薬」が気になると言う。

ポストハーベスト農薬とは、収穫後の農産物に使用する農薬のこと。小麦を輸入するには長時間輸送しなければならないので、その際にカビや害虫が発生しないよう、農薬を散布する場合がある。1990年、農薬散布の光景が衝撃的に報道され、気にする人が増えた。外国産小麦を使った小麦粉から農薬は検出されていないものの、「国産小麦だとお客さんも安心してくれます」とTさんは言う。

国産小麦が抱える圧倒的なハンデ

ならば、小麦の自給率を高めればいいと考えるかもしれない。なにしろ、現在の小麦自給率は10%程度しかないのだから。生産量が増えれば小麦粉の価格低下も見込める。しかし、国産小麦には輸入小麦の大半を占める北米産と比べて大きなハンデがあると、日本パン技術研究所の原田昌博氏は指摘する。

1つは、収穫時期の問題だ。小麦には春まきと秋まきの品種があり、日本が輸入する北米産のパン用の小麦粉の原料小麦は、タンパク質含有量が多い春まきだ。パンを大きくふくらませるには、タンパク質含有量が多いほうがよい。

一方、日本で小麦は、基本的にはコメの裏作と位置づけられ、秋まきが中心。春まきの小麦には栽培しやすく収量が多い品種が開発されていないこともあって、農家も栽培に消極的だ。秋まき小麦の収穫時期は梅雨と重なる。小麦の穂は雨に当たると発芽してしまい、パンに使えなくなってしまう。しかも、秋まき小麦のタンパク質含有量を増やすには、肥料をたくさん与えなければならない。

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