銀座「食パン専門店」に行列する人のお目当て 国産小麦の実力はどこまで向上したか

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もう1つは、小麦栽培にはコメと相反する畑の条件が求められることだ。コメに適した田んぼの保水力がある粘土層は、「小麦栽培に対しては、水はけが悪くて根の張り方がよくないことになる。そこでも肥料がたくさん必要になるが、コメにはあまり肥料を入れないほうがいい」(原田氏)。

つまり、コメの裏作で作る小麦は基本的に、パンに向かない。そして、大きなハンデを克服してまでパン用の小麦を作るモチベーションが、農家に持たれにくいという歴史が日本にはあった。

日本の麦栽培は、農家の主食用として発達していた。コメは年貢や換金作物になるため、自らは裏作で育てた麦を混ぜたご飯を食べてきたのだ。その頃に育てた麦は、はだか麦や大麦が中心。小麦もあったが、それはうどんなどに向く中力粉用で、パン用ほど肥料を必要としない。

一方、寒冷地という条件もあって、近代以降に畑作地帯として発展した北海道は現在、国産小麦の主要産地である。「品種ごとの栽培マニュアルも徹底されていて、大型機械もある」(原田氏)という条件も大きい。

「ゆめちから」と「ニシノカオリ」が誕生

北海道では1980年代からパンに向く品種が栽培されてきたが、2009年、病気になりにくいため安定した収量が見込め、パンに向く新品種「ゆめちから」が誕生。原田氏は、「農林水産省からの補助金がつくため利益が大きく、急激な増産に拍車をかけた」と言う。

本州以西でも、1999年に九州沖縄農研センターで生まれた品種「ニシノカオリ」がパンに向いていたことから、「北海道以外でもパン用の品種ができる、と火がついて」(原田氏)、各地でパン用の小麦が栽培され始めた。増産の結果、国産小麦を使ったパンがちまたで増えたのだ。

それでも、絶対量が少ないゆえのハンデがある。それは、品質が安定しないことだ。町のパン屋の場合、加える水の量やこね加減などをその都度調整しながらパンを作っている。そもそも小麦は農業生産物であり、その年の天候などによって品質のブレは生じる。

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