高円寺の「古い階段」に女子が萌える理由 「安全性」追求の結果、街から失われたもの

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なぜ古い「階段」に萌えるのか。レトロブームの1つかもしれないし、廃墟ブームともつながるだろう。あるいは団地ブームとか、工場萌えなどに通底するところがある。最近では、元『東京人』副編集長の鈴木伸子による『シブいビル』(2016年)も刊行後たちまち増刷したというし、それ以前には関西のビルマニアによる『いいビルの写真集』(2012年)が出版されている。これはいずれも1960年代前後に建てられた、必ずしも有名建築家が設計したとは限らない街場のビルに注目している。

ごく普通の建築に魅力がある(筆者撮影)

現代は、古いマンションがビンテージマンションと呼ばれて珍重される時代だ。新築のタワーマンションも人気だが、一方で古い建物好きが増えている。レトロな物件も含めて個性的な物件を紹介する「東京R不動産」もすでに15年目を迎える。古い建物をリノベーションしたいと思う人と古い階段を好む人には同じ感性があるだろう。

だが今は、オリンピックがきっかけとなって都市再開発が盛んであり、会場とは無関係の街まで住宅や商店の建て替えが増大している。そして、ホテルオークラのように名建築として愛されていたものですら、老朽化、増大する外国人観光客への対応などを理由に建て替えられてしまう。

現代建築で、階段は「内側に隠されてしまった」

一度壊した物は二度と戻らない。にもかかわらず、古い建物がどんどん建て替えられる。まして何の変哲もない木造アパートや商店などは何の議論もされぬまま消えていく。

現代の建築では、階段はたいがい建物の内側に隠される。バルコニーもそうである。だから外観が平らでのっぺりする。防災性、耐震性から見て危険だからである。また昔のマンションは、エントランスを入ると広い空間があるものが多かったが、今は巨大なタワーマンションでないとそんな広い空間はない。やはり耐震性の点で広い空間が危険だからだ。

魅力的な外階段は、街の「安全性」と引き換えに取り壊され、建物の内側へと隠されていく(筆者撮影)

現代人が昔の建築に萌えるのは、昔の建築のほうが防災性や耐震性に今ほどとらわれずに自由にデザインができたからという面もあろう。最近の自動車も、省エネ、安全などの基準をクリアするためにデザインが犠牲になり、どの会社のどの車も似たようになり、つまらなくなる。昔の車のほうがいいという人が増える。それと同じことが今、建築にも起こっている。

階段などの多様な小さなエレメントが、実は街の魅力をつくっていることにわれわれはもっと気づくべきだ。マンションのバルコニーも凸凹した外壁も、商店の看板も、木造建築の瓦屋根も、銅葺きの壁も、路地に置かれた植木鉢も、庭に植えられた木も、すべてが街の個性を構成する重要な要素なのである。そういう視点でもっと街を見、街をつくっていかなければならない。

三浦 展 社会デザイン研究者

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みうら あつし / Atsushi Miura

カルチャースタディーズ研究所主宰。1958年生まれ。1982年に一橋大学社会学部卒。パルコに入社し、マーケティング誌『アクロス』編集室。1990年に三菱総合研究所入社。1999年に「カルチャースタディーズ研究所」を設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。 著書は、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、『第四の消費』『日本人はこれから何を買うのか?』『東京は郊外から消えていく!』『毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代』『あなたにいちばん似合う街』など多数。

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