トランプ米大統領によるコミーFBI(米連邦捜査局)長官解任は、ウォーターゲート事件当時にニクソン大統領が行った「土曜夜の虐殺」との類似性が語られるが、状況はまるで異なる。
1973年10月、当時のニクソン大統領は、ホワイトハウスで極秘録音されたテープを証拠提出するよう求めたコックス特別検察官の解任を命じた。しかし、リチャードソン司法長官とラッケルズハウス司法副長官が、抗議して辞任。世論調査でもニクソン大統領の弾劾を求める声が過半数を上回り、これが終わりの始まりとなった。ニクソン大統領は最高裁からテープの提出を迫られ、辞任する。
終わりどころか何も始まらない可能性も
だが、トランプ大統領によるFBI長官解任は、終わりどころか、何の始まりにもならない可能性がある。ニクソン氏同様、トランプ大統領には弾劾に値する重大な過失があるのかもしれない。だが、たとえそうであっても、トランプ大統領は十分に逃げ切れるだろう。
ニクソン時代は、対抗する民主党が上院と下院で過半数を握っていた。共和党内にも、身内の利益より憲政上の道理を通そうとする議員がいた。上院特別委員会によって行われた公聴会が、大統領の辞任へとつながったのだ。だが、共和党が多数派を占める現在の議会は、大統領選挙へのロシアの介入とトランプ陣営との関連に関する調査を遅らせようとしているようにしか見えない。
メディアの状況も違う。ワシントン・ポスト紙のカール・バーンスタイン、ボブ・ウッドワード両記者による粘り強い取材が突破口となり、ウォーターゲート事件は一大スキャンダルに発展した。一方のトランプ大統領はFOXニュース、ブライトバートニュースといったトランプ系メディアのプロパガンダに助けられている。ニクソン元大統領がいくら望んでも、決して得られなかった状況だ。
もちろん、ニクソン政権同様、トランプ政権がいずれ倒れる可能性はある。だが今のところ、トランプ大統領のFBI長官解任は「土曜夜の虐殺」の再来とはなりそうにない。仮にトランプ大統領がニクソン氏同様、重要な何かを隠していたとしても、今の政治状況には、それを白日の下にさらすほどの力はないからだ。
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