東京音大「音楽+リベラルアーツ」の潜在力

リベラルアーツ科目はすべて英語で授業

一方、優秀な学生を採用することに力を注ぐ一般企業からの声も興味深い。これまでの常識では、音楽大学卒業生は潰しが効かないといったイメージがあったように思えるところが、最近では一般企業の中で活躍する音楽大学卒業生の評価がすこぶる高いというのだ。まじめで素直(音楽ばかりやっていたから、すれてない)なうえに、資格取得への積極的な取り組み姿勢(コンクールを目指すうえでは当然のこと)が目立つのは、音楽に長年取り組んできた結果身に付けた、“人一倍努力する姿勢”そのもの。それが今改めて評価されている。

言い方を換えれば、社会で求められる「集中力」「継続力」、そして「忍耐力」は、音楽を学んだ人間の最大の持ち味だともいえそうだ。そこに英語力とコミュニケーション力が加われば鬼に金棒。余暇には音楽をたしなむすてきな社会人の誕生だ。かつて、礼儀正しく上下関係の規律を重んじる体育会系の学生がもてはやされた時代があったように、これからは音楽大学系の学生が社会に受け入れられやすい環境が開かれ始めたのだとしたら、音楽業界的にもこれにまさる喜びはない。

文学を学ぶように音楽を

さて、この先、音楽大学はいったいどのような方向に進むのだろう。個人的には、「ミュージック・リベラルアーツ」をさらに一般化した“音楽を聴くスペシャリスト”のための専攻科をぜひとも開設願いたい。大学生としての4年間は、人生の中で最も自由に好きな勉強ができる時間だと考えたときに、その選択肢の中に音楽があってもいいように思われる。

日本文学やドイツ文学、フランス文学を選択するように音楽を選択できたら、どんなにいいだろう。ちなみに、音楽大学で学ぶことにあこがれつつも自分の演奏能力の限界を自覚していた(努力する能力に欠けていた)筆者は、大学進学の際に、演奏以外において音楽大学と同じように音楽を学ぶことができる学部に行きたいと願った末に、ドイツ文学科を選択した過去がある。

結果的にその判断は正しく、ドイツ文学を隠れ蓑にひたすらドイツ音楽とその文化に浸った日々が今の自分の血となり肉となって仕事までしているのだから、人生は面白い。   

“音楽を聴くスペシャリスト”を養成するということは、すなわちクラシックファンないしはクラシックの水先案内人を養成することにほかならない。クラシック人口が増えるうえに、その中からわれわれの同業者たる優秀なジャーナリストやライターが生まれる可能性もあるとしたら、それこそもろ手を挙げて歓迎だ。

すでに1.音楽家養成、2.音楽教育者養成、3.音楽的資質を持った社会人の養成、という3つの柱を掲げ始めた音楽大学は、「ミュージック・リベラルアーツ」の登場と共に新たな転換期を迎えようとしている。

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