11年ぶり体制一新 野村・国内営業の挑戦
日本全国に約170拠点。証券界随一のリテール(個人向け取引)支店網を構える野村証券が、その営業体制を7月から刷新した。
野村が国内営業組織を見直すのは1997年以来11年ぶり。ポイントは、専任顧客を持たずに支店窓口での簡単なサービスの提供に徹する「ファイナンシャル・サービス(FS)課」を設けたことだ。
FS課は、詳細なアドバイスが必要な顧客をそのニーズや資産規模などに応じて別の課に誘導する役割を持つ。富裕層には「ウェルス・マネジメント課」が、リタイアメント層には「ファイナンシャル・アドバイザー課」が、それ以外の層には「ファイナンシャル・コンサルティング課」がそれぞれ応じる形だ。これにより、非効率だった顧客対応体制を見直し、手数料を確実に取り込むことをもくろんでいる。
個人の力量重視から組織の野村に脱皮へ
これまで野村の国内営業支店には、主に窓口業務を行う「お客様サービス課」など3課があった。しかし、組織ごとに明確な役割分担がなされていなかったのが実態。営業マンは個人の判断で顧客を開拓し、囲い込んできた。たとえば来店顧客については、お客様サービス課の課員であっても最初に応対してそのまま担当を継続するケースがあった。資産規模やニーズなどがバラバラなのに、担当者はそれらの面倒をまとめて見てきたのが現実だ。いわば個人の力量に頼った営業体制を敷いていたわけで、そうした社内の自由競争が強さの源泉だったともいえた。
だが、時代は大きく変わった。野村の扱う金融商品が株式や債券、投資信託に限られ、インターネットが普及していない時代はそれでも成り立った。ところが、今や個人の株式取引は売買代金ベースで9割以上がネット経由。規制緩和が進む中、保険やローンなど野村自身で取り扱える商品やサービスの幅も格段に広がり、かつ商品そのものも複雑化した。
ネット経由の取引だけでほぼ満足する投資家がいる一方、担当者の細かなアドバイスを望む顧客もいる。それぞれのニーズはさまざまだ。「そうした多様な声に対して、営業担当者一人でできる対応には限界がある」と野村の国内営業を統括する多田斎専務は打ち明ける。
新体制移行後の各支店では顧客の求めるサービス内容に応じ、それぞれ専門性を高めた担当者が対応。場合によっては専任担当者を付けずに商品を販売し、ネットや電話窓口へも誘導する。組織的な対応の強化で弱点克服を狙う布陣である。
2008年3月期こそサブプライムショックに端を発した金融混乱の影響で目減りしたものの、今の野村の預かり資産は、5年前の約2倍に拡大している。大量退職のピークを迎えた団塊世代の退職金運用需要をはじめ、個人の金融資産が「貯蓄から投資へ」の旗を振る政府の方針に沿って、流れ込んだ結果だ。