毛毛の生中継は午後8時ごろから始まる。8時ごろというのは、きっちりと開始時間が決まっているわけではなく、準備が整ったら、ただ、なんとなく始まるのだ。そこが時間にルーズな中国らしい。本番が近づくと化粧が始まる。
パソコンのデスクに座り、つけまつげをしてマスカラを入れれば、目力が増してグッと色気が出る。そのときは白いカーディガンを羽織っていたが、着ていたのは細い肩ひもで吊られ、胸の谷間がちらっとのぞくあたりから始まる紺色のワンピース。体のラインにぴったりと密着し、腰のあたりからは白い幾何学模様が入りショートのキュロットスカートのようになっている。
「あとどのくらいで着替えるの?」
毛毛がデスクに向かってパソコンをいじっていたかと思うと、いつのまにか本番が始まっていた。始まったと言っても、側から見ていてわかるような何か大きな変化が起きたわけではない。毛毛が「お酒飲んでいるの」とか、視聴者のアカウント名を呼んで「**さん、ありがとう」などと、パソコン画面に向かって話しかけているだけだ。
毛毛が見ているパソコン画面には、彼女自身が映っているから、まるで鏡の中の自分に向かって話しかけているようだ。鏡と違うのは、その画面上に白い文字で視聴者からのメッセージが次々と流れてくる点だ。「あとどのくらいで着替えるの?」「バスケットボールは好き?」等々。彼女はそうしたメッセージに答えているのだ。
毛毛は、パソコン画面に向かって、時折、笑い声をあげたりしながら、独り言のような「会話」をしていたが、しばらくすると「踊りが見たいの!?」と明るい声を上げて立ち上がった。音楽のボリュームを上げ、座っていたいすを部屋の隅に追いやる。さらにカメラの位置を調整して、1、2歩下がるとパソコン画面とその上についたレンズに向かって踊りだした。
服の上からでもわかる毛毛の細くくびれた腰がアップテンポの音楽に合わせてクネクネと左右に動く。キュロットスカートから伸びた太ももとステップを踏むはだしが、まぶしい。半開きの唇を歌詞に合わせるようにわずかに動かしながら、微熱があるかのような潤んだ視線をカメラに送ると、狭い中継部屋には毛毛の放つフェロモンが充満した。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら