岡田准一が敬服する「降旗&木村」の深い魅力 高倉健作品手掛けた名コンビが「追憶」で復活
今回、降旗監督、木村キャメラマンという二人のコンビの現場を体験した岡田は、「大作さんが降旗監督と話をしているのをちょっと離れたところで見ていたんですが、"あうんの呼吸"で過ごされていたのが印象的です。あまり会話はないのに、心が通じ合っているさまはすごく神々しいというか、二人の経験に基づいたやりとりはすごく美しい時間でしたね」と証言する。
木村大作は1939年生まれ。1958年に東宝に入社し、1973年に撮影監督デビュー。『隠し砦の三悪人』『悪い奴ほどよく眠る』『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』など、黒澤明監督作品の多くに撮影助手として参加した経験も持つ。
後に木村は、筆者のインタビューで“黒澤組”での経験を、「そういうのを見てきたのは、もう俺くらいが最後の世代。だからあれこそが本物の映画作りだと思っているところはあるよ」と、キャメラマン人生の大きな原点のひとつだと語っている。
“妥協しない“木村大作は降旗監督に全幅の信頼を寄せる
しかし、“映画が好き”で、“いい画面を作りたい”という思いは人一倍強く、他人と衝突することも日常茶飯事。それは先輩であっても、鶴田浩二のような大スターであっても、ハリウッドスターであっても変わらなかった。
「だって自分が思っていることと意見が違うわけだろ。それは言い合っていれば当然そうなる。それを嫌がるということは、“はいはい、分かりました”ということでしょ? そんな人生は俺にはないな」(木村)。
そんな木村が全幅の信頼を寄せるのが降旗康男という映画監督である。木村は「降旗さんには哲学がある。降旗さんが言うことを聞いていると、まるで中国の詩人のようだよ。(中略)今でも降旗さんから教えられることは多い」(『誰かが行かねば、道はできない』より)とその思いを語っている。
以前、筆者が木村にインタビューした際、こんなことも語っていた。二人の関係性がよく出たエピソードなので引用してみる。
「もうずいぶん前だけど、降旗さんに自分の生き方を相談したことあるよ。“俺、すぐケンカになるから、自分の性格が嫌になっちゃうよ”ってね。毎日のように怒鳴っていたら疲れるしね。降旗さんに“どうしたらいいんですかね”と尋ねたら、“大ちゃんは、いちいち立ち止まりすぎる。世の中にはこういう人もいるんだと、通り過ぎればいいんですよ”と言うんだね。それは『老子』なんだよ。“水のように生きろ”ということだね。降旗さんはそれを実践しているわけだよ。“通り過ぎないと生きてられませんよ。大ちゃんはいちいち立ち止まるから”。そう言われて、なるほどと思ったから半年ほどそれを実践してみたけど、結局、俺にはできなかった(笑)」(2014年6月28日配信記事「監督をやりたいのではなく、映画を作りたい」)
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