───内臓という1本の管に刻まれた海辺のカレンダーで、春になると何となくウキウキする?
そうですね。無意識の中で繰り返し刻まれたリズムに人間は支配されていて、そのときに起こる“そこはかとない感覚”みたいなものを三木はこころと表現した。それは地球と月と太陽と、もっと大きな宇宙と対応しているわけで、そこがとても大事なのです。結局バランスですよね。動物的な体が持つ意識と植物性器官である内臓が持つこころのバランスが崩れてしまって、内臓のこころみたいなものがないがしろになっている。でも人間とはそんなものじゃないというのが三木先生の考え方。
内臓が宇宙とつながっている
──こころとは体にある、と。
脳で考える意識とは別ですし、感情とも別。喜怒哀楽は脳にスイッチがあり、ある種の無意識も脳の働きですけど、でも人間が持つこころには、それではすくいきれない、もっとそこはかとない何かがある。緊張すると胃がキリキリしたり、お腹の具合が悪いと落ち着かなかったり。つまり内臓がつながってる。そもそも体ができてきた由来を考えたときに、先程話した波のリズムと体のメカニズムが対応してるのと同じで、すべての内臓が宇宙とつながっていると三木成夫は考えた。
──今回本を作るに当たっては、表紙にもこだわられたそうですね。
デザイナーさんには、ほわんとした命を形にしてくれと頼んだんです。イラストの体の真ん中を縦に走る切り込みが1本の管にも背骨にも見える。その1本の管に本の地色である青色、海の色がのぞくようにした。肌の色も「うんちの色にしてください」とお願いしました。うんちは内臓を鋳型とした内臓の痕跡。内臓の便りですよね。1本の管から始まったヒトの体に刻まれた声に耳を澄ますことは、5億年のはるかな思い出の声を聴くことであり、それがこころの世界の本質と考えた。そんな点も含め、1つの造形物としてこの本を楽しんでいただけたらと思います。
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