トヨタが住友の源流企業と株を持ち合う理由 HV・EVに不可欠な材料の調達が重要課題に

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住友金属鉱山の電池材料の品質、技術力に対するトヨタ側の高い評価がこうした取引関係につながった。さらに住友金属鉱山にはもう1つの強みがある。正極材料に不可欠で、容量を上げていく際に量的にも必要になるニッケルを、鉱山開発から製錬、材料に至るまで一貫して自社で生産していることだ。これは、世界の資源メジャーから見ても独特の事業構造であり、同社の競争優位性となっている。

ここ数年、HVや電気自動車(EV)の普及が拡大しているが、トヨタにとって住友金属鉱山との関係強化は材料の安定調達という観点から戦略上不可欠なのだ。自動車メーカーや二次電池メーカーにとって、こうした素材・材料をどう調達していくかは大きな関心事。素材や材料を調達できなければ、生産自体が制限される可能性があるからだ。

住友金属鉱山が供給する「ニッケル酸リチウム」(写真:同社ウェブサイトから)

たとえば、ニッケルは現在、世界で年間約200万トン生産されているが、ステンレス向けを除くと約80万トン。リチウムイオン電池の正極材料に使用できるニッケルとなると、さらに限られる。今後HVやEVがさらに普及していくと、ニッケルの確保は難しくなる可能性がある。住友金属鉱山が生産しているわけではないが、最近ではレアメタル(希少金属)の一種で、バッテリーの材料に使われるコバルトの国際価格が高騰している。

EV向けにも正極材料を供給か

資源が有限ということだけではない。「コンフリクトメタル」=紛争鉱物の問題もある。

アフリカのコンゴ民主共和国など紛争地域で採掘され、人権侵害などを行う組織の資金源になるような鉱山資源は使わない、という世界的な流れの中で、紛争鉱物でないことの証明が必要になっている。

いわゆる「コンフリクトフリー」(紛争鉱物ではない)であるかどうかは、製錬の段階で証明が必要になってくる。もし紛争鉱物を使っていた場合、たとえば、その製品は不買運動の対象や販売停止になる可能性が否定できない。その点、鉱物から一貫して手掛ける住友金属鉱山なら、安心して調達できる。

これまでEVについては出遅れ感もあったトヨタだが、2020年までにEVを量産化する計画だ。株式持ち合いという緊密な関係からすれば、当然、HV向けだけでなく、EV向けにも住友金属鉱山は正極材料を供給するものと予想される。すでに、住友金属鉱山はパナソニック向け(最終的には米テスラのEVに使用される)電池材料の大幅増産を決定している。今後、トヨタとの関係拡大が注目される。

木村 秀哉 東洋経済 記者

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きむら ひでや / Hideya Kimura

『週刊東洋経済』副編集長、『山一証券破綻臨時増刊号』編集長、『月刊金融ビジネス』編集長、『業界地図』編集長、『生保・損保特集号』編集長。『週刊東洋経済』編集委員などを経て、現在、企業情報部編集委員

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