クスリの大図鑑 <感染症> 実に150種以上 種類多い抗菌薬 適正使用がカギ

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 長寿国ニッポンを抗菌薬は脇で支えてきた。20世紀初め、日本人は肺炎、結核、胃腸感染症で命を落としてきた。戦後ペニシリンをはじめとする抗菌薬の登場で感染症死亡は激減し今に至る。ただ、感染症を完全に制圧したわけではない。ロタウイルスなど新たに発見された“新興感染症”、結核など克服したはずの“再興感染症”など、感染症と抗菌薬はつねに追いかけごっこだ。

医療が高度化するほど感染症対策が必要となる側面もある。たとえば骨髄移植。無菌室にいると、常在細菌叢(そう)といわれる自分の中にあるバクテリアによって感染が起きるおそれがある。強力な抗菌薬の出番だ。

追いつ追われつの歴史を経て、現在、医師の使える抗生物質の種類は150以上もあり、菌のどこに作用するか(作用点)で分類される。たとえばβラクタム系抗菌薬は、菌が細胞壁を作る過程をブロックして増殖を防ぐ(効き方[1])。このタイプが全体の約65%を占め主流だ。続いて菌細胞の核酸合成を阻害する(効き方[2])タイプ、タンパク質合成を阻害する(効き方[3])タイプなどがある。抗菌範囲はそれぞれで異なり、乾いた激しいせきが特徴のマイコプラズマ肺炎は、病原微生物に細胞壁がないのでβラクタム系は効かない。

近年のいちばんの問題は耐性菌の増加だろう。多剤耐性緑膿菌、MRSA(耐性黄色ブドウ球菌)などが登場しては私たちを脅かす。菌と抗菌薬は鍵穴と鍵の関係だが、菌は鍵や鍵穴の形を変える、鍵穴を閉じて薬の細胞内流入を阻害する等、あの手この手で耐性を獲得する。

そこで薬の適正使用が重要になる。キーワードは「PK/PD」。抗菌薬の体内濃度と抗菌作用に着目する考え方だ。抗菌薬は、投薬後一気に体内濃度を高めるとよい薬(左上図A)、一定以上の体内濃度を維持するとよい薬(B)等に分かれる。この物差しに即した用法用量を投与すれば、薬の有効性が高まるうえに耐性化も防げる。もちろん、患者が処方どおりに服用するのが大前提。“5日分出たが、1日目でよくなったから捨てた”などはもってのほかだ。



表とグラフの見方
 表は、疾病別の主要医薬品を2007年度売上金額の上位順にランキング。ただし一部の売上金額と前期比伸び率は本誌推定。また一部は薬価ベースでの売上金額を採用しており、売上高ベースより金額が膨らむ。一方、グラフは、代表的な先発薬と、その後発品とで自己負担額を比較した。後発品薬価は08年4月現在で存在する全品目の平均値で計算。また、実際の支払い時には薬局での調剤報酬等が含まれる場合がある。

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(週刊東洋経済)
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