クスリの大図鑑 <糖尿病> 中高年の3分の1が“患者” 完治薬なく新薬に熱視線
あなたのクスリ、合っていますか?−−自分や家族の飲んでいる薬をもっと知ることが健康や安心につながる。効き方から市場シェア、選択肢の有無、後発品との価格比較、新薬開発動向まで、主な12の病気のクスリについて掲載。
糖尿病は、“沈黙の病気”ともいわれ、自覚症状が出にくい恐ろしい病気だ。恐ろしさの理由は、「3大合併症」である糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害を引き起こすことにある。「糖尿病は健康寿命を10年縮める」とも言われるゆえんだ。
糖尿病網膜症は失明原因の第1位で年間3500人を超える。また、毎年新たに1万人以上が人工透析を始めているが、うち約半分は糖尿病性腎症が理由である。糖尿病性神経障害がひどくなると下肢切断に至るうえ、血管をもろくして動脈硬化を引き起こし、将来の心筋梗塞リスクを高める。このように合併症は重篤であり、治療にかかる医療費はばく大な金額となる。
2006年に厚生労働省が報告した国民健康・栄養調査結果の概要などによると、糖尿病患者数は246万人、有病者数は740万人。さらに、患者の可能性が否定できない人は、前回調査から何と250万人も増加し1870万人に膨らんだ。実に中高年の3分の1が糖尿病、あるいはその予備軍という計算になる。
治療薬の種類は豊富 2剤併用も進む
糖尿病薬市場はここ10年間拡大を続け、2000億円を突破した。市場の4割を占めるのはα‐グルコシダーゼ阻害薬(効き方[1])だ。
食事などで摂ったでんぷんは唾液で二糖類に分解、さらに腸で単糖類のブドウ糖(グルコース)に分解されたあと、細胞が血液の中から取り込んでエネルギーとして活用する。このプロセスを助けるのがすい臓から出るインスリンというホルモンだ。インスリンの分泌が減ったり、細胞のインスリンへの感受性が鈍ったりすると、糖を十分に利用できなくなり、結果として血糖値が高くなる。
α‐グルコシダーゼは腸に運ばれてきた二糖類がブドウ糖に変化して吸収されるのを助ける酵素だ。この働きをブロックし、食後の急激な血糖値上昇を防ぐ。食後の急激な血糖値上昇は「グルコーススパイク」といわれ、血管内皮を傷つける。
一方、売り上げを大きく伸ばしているのがインスリン抵抗性改善薬(効き方[2])。これはインスリンの分泌量そのものを増やすというより、効き目をよくする薬だ。
このほか、すい臓に直接作用するインスリン分泌促進薬(効き方[3])としては、スルホニル尿素系のアマリールがトップ製品だ。インスリン分泌促進作用のほかに、アクトスのようなインスリン感受性増強作用も有していることが処方の増加につながっている。同じ促進薬でもグルファストは効果発現が速いことを生かして、α‐グルコシダーゼ阻害薬のベイスンと併用もされている。
インスリンを直接補給するインスリン製剤は下表にはないが、ヒト中性インスリン注射液やヒトイソフェンインスリン水性懸濁注射液など、速効型から持続型まで品ぞろえしているノボ・ノルディスクファーマの製品群が伸びている。