クスリの大図鑑 <睡眠障害> 5人に1人が不眠 GABAを活発化させ興奮を抑制
睡眠障害による日本の経済的損失は3兆4694億円。日本大学医学部精神医学系の内山真教授による試算だ。眠気による作業効率の低下や欠勤・遅刻が日本経済に兆単位の損失を与えている。また、内山教授は、疫学調査に基づき、日本で不眠に悩んでいるのは5人に1人、睡眠薬を使用しているのは20人に1人と推計する。欧米と比べほぼ同等か、やや低い程度の割合という。
不眠症の薬は、1960年代に開発されたベンゾジアゼピン系が、今も市場で重要な地位を占める。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、神経の働きを抑制する神経伝達物質GABA(ギャバ)を活発化させる。GABAがシナプス間隙を経由して受容体につくと、中枢神経の興奮が抑制される。受容体にはω(オメガ)1とω2の2種類があり、当初のベンゾジアゼピン系薬は両方の受容体の感受性を高めるもの(効き方[1])だった。
だが、これではω2の、不安を抑え筋肉を弛緩させるという働きも強めてしまう。高齢者だとふらついて転倒するおそれがある。そこで出てきたのが、ω(オメガ)1のみの感受性を高める(効き方[2])作用を持つ薬だ。これなら催眠鎮静作用を選択的に高めることができる。いま市場で最も売れているマイスリーはこのタイプだ。
選択的とはいえ副作用はある。米国では昨年3月、服用後に意識のないまま起き上がって車の運転をしたり、無意識に食事をするなど夢遊病的症例が報告され、注意喚起された。日本でも昨年7月から添付文書に警告が記載されるようになった。
開発中の新薬で期待されるのが、睡眠誘発作用を持つメラトニンを活発化させる(効き方[3])ロゼレム。武田薬品工業が開発、2月に承認申請を行った。
一般用医薬品ではドリエルが首位。風邪薬を飲むと眠くなるが、その原因である抗ヒスタミン剤(効き方[4])の働きを逆手にとって製品化した。年商5億円でヒットと呼ばれる大衆薬市場で2003年の発売以来、20億円前後の販売を続ける。昨年からネオデイ(大正製薬)なども発売され、市場が拡大している。
表とグラフの見方
表は、疾病別の主要医薬品を2007年度売上金額の上位順にランキング。ただし一部の売上金額と前期比伸び率は本誌推定。また一部は薬価ベースでの売上金額を採用しており、売上高ベースより金額が膨らむ。一方、グラフは、代表的な先発薬と、その後発品とで自己負担額を比較した。後発品薬価は08年4月現在で存在する全品目の平均値で計算。また、実際の支払い時には薬局での調剤報酬等が含まれる場合がある。
・<気管支ぜんそく(アレルギー)> 死亡者は激減だが高齢者の発病と「たばこ病」が課題
・<感染症> 実に150種以上 種類多い抗菌薬 適正使用がカギ
・<アルツハイマー型認知症> 神経細胞死に着目! 「老人斑」を作らせない
・<うつ病> 欧米に10年遅れのSSRIやSNRI 躁うつ病に効くのは?
・<関節リウマチ> 生物学的製剤の登場で痛みや腫れが“半減”
・<過活動膀胱、排尿障害> 尿の悩みに新薬続々 海外はED薬併用へ?
・<骨粗鬆症> もはや“生活習慣病”? 女性中心に患者数膨張
・<ガン> 3人に1人はガンで死亡 “輸入新薬”多いのが課題
・<脂質異常症> 強力スタチンで劇的改善 女性へは使われすぎ?
・<糖尿病> 中高年の3分の1が“患者” 完治薬なく新薬に熱視線
・<高血圧> 新薬ARBが急成長 7月から一部が特許切れ
(週刊東洋経済)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら