クスリの大図鑑 <脂質異常症> 強力スタチンで劇的改善 女性へは使われすぎ?
あなたのクスリ、合っていますか?−−自分や家族の飲んでいる薬をもっと知ることが健康や安心につながる。効き方から市場シェア、選択肢の有無、後発品との価格比較、新薬開発動向まで、主な12の病気のクスリについて掲載。
コレステロールや中性脂肪の血中濃度が高くなる脂質異常症。自覚症状はないが、長期間放置すると動脈硬化をもたらす。動脈硬化になると血管内に傷を作りやすくし、血液の流れも悪くなる。これが狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす。いずれも場合によっては生命にかかわりかねない病気だ。
コレステロールを下げる薬はかつてなかった。1960年代に米国で初めて登場したのが、レジンと呼ばれる陰イオン交換樹脂。腸の中で胆汁酸と結合し、そのまま便として排泄される。胆汁酸は肝臓で作られ、腸を経て再び肝臓に戻っていくもの。腸にいる間に排泄されると、また新たな胆汁酸を作らなければならない。胆汁酸はコレステロールから作られるので、胆汁酸を排泄することはコレステロールを減らすことにつながるのだ。
レジンの効果を見るために数千人を対象に行われた試験の結果が発表されたのが84年。レジンによりコレステロールが約20%下がり、心筋梗塞の発症率も十数%減った。このときに興味深いことがわかった。試験では薬の効果を見るために、偽薬(プラセボ)という治療効果のないものも投与する。偽薬投与の人たちにも食事指導をしていたので、レジンの効果ではなく食事を変えたことによりコレステロールが下がった人たちもいた。彼らもやはり心筋梗塞の発症率が下がったのだ。これによりコレステロールを下げると心筋梗塞を減らすという脂質仮説が提案された。
しかし、そのときに問題だったのは、確かに心筋梗塞は減ったが、総死亡率はあまり減らなかったこと。つまりレジンを使うことにより死に至るほかの病気を増やす弊害があるのではと疑われたのだ。
画期的スタチンの登場 死亡率が劇的に低下
その頃、米国ではスタチンと呼ばれるコレステロール合成阻害剤が販売されるようになった。肝臓でコレステロールを合成するHMG-CoA還元酵素の働きを阻害する(効き方[1])。この酵素に着目したのは日本人のほうが早かった。青カビの一種から同じ作用を発見していたのだ。だが、薬としての市場投入は、米メルク社のメバコールのほうが早かった。日本で三共(当時)がメバロチンとして発売したのは2年後の89年だ。
そしてメルク社により、LDL(低比重リポタンパク、通称悪玉コレステロール)を下げたときの効果を見る大規模な試験が行われた。すると総死亡率は30%下がった。LDLの下がり方も、レジンでは十数%でしかなかったが、スタチンでは25~30%下がった。LDLを下げれば寿命を延ばすことができるというデータが94年に発表されたのだ。
この後、製薬各社は自信を持ってスタチンの開発に取り組んだ。一方、研究者の間ではLDLを下げることの検証が進んだ。そのまとめの解析は2005年に発表された。それによるとLDLが下がると確実に総死亡率が下がることが確かめられた。脳梗塞や心筋梗塞が減った。ただ、ガンと脳出血については明確な因果関係が見られなかった。