「年収1000万円」の夫が家事分担に抱く不満 専業主婦を「食わせてる」と言ったら終わりだ

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さて、以上をふまえて、今回の相談について、こういちさんの立場から考えていきます。正社員の男性に求められるのは、1日8時間、週40時間は「最低限」で、それ以上が「当たり前」という働き方です。長時間労働が社会問題となって久しいですが、現実には、働き盛りとされる中年男性は、週に50時間、60時間働くこともざらにあるでしょう。

それでも、仕事にやりがいがあるのは間違いないと思います。営業目標の達成や昇進のように、わかりやすい評価があるのも会社勤めの特徴です。一方で、もしかしたら今まさにそのような方が目の前にいるかもしれませんが、電車の中で口を開けて爆睡してしまう中年男性がいることからもわかるように、仕事には過酷な側面もあります。働くことについてやりがいと過酷さの片方にしか着目しない議論は、バランスを欠いています。

男のツラさは、「仕事を辞める」選択肢がないこと

ただ、仮にやりがいが感じられているとしても、家族の生活がかかっている以上、辞めるという選択肢が絶対にありえないのが、男性の働き方の最も過酷なところです。学校卒業後、40年にも渡って仕事を中心に生きるしかない。これだけの不自由を「男」だからという理由だけで課せられているわけです。あまりにも日常に溶け込んでしまっているために、誰も褒めてはくれませんが、もっと評価されてしかるべきだと思います。

このように考えていくと、こういちさんは家事を分担するのが嫌なのではなく、普段の自分の仕事ぶりを奥様が認めてくれないことがご不満なのではないでしょうか。

こういちさんが専業主婦の仕事を理解できなかったように、奥様は会社員の生活を具体的に想像することができません。時間を見つけて、普段どのような1日を送っているのかを報告しあってみてはいかがですか。家事分担うんぬんではなく、お互いの立場を尊重できるような家庭こそが、本当の意味での「やすらぎの場」であるはずです。

読者の皆様から田中先生へのお悩みを募集します。「男であることがしんどい!」「”男は○○であるべき”と言われているけれど、どうして?」などなど、“男であること”にまつわるお悩み・疑問がある方はこちらまでどうぞ。相談者の性別は問いません。
田中 俊之 大妻女子大学人間関係学部准教授

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たなか としゆき / Toshiyuki Tanaka

1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教、大正大学心理社会学部准教授を経て、2022年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。

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