任天堂社長が説く、ヒットゲームの新法則 任天堂・岩田聡社長ロングインタビュー(上)

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 ――開発の発想を変えてきたのでしょうか?

任天堂の開発者は、お客様に共感いただけるかどうかに対して、ものすごく貪欲です。お客様に共感いただけるものなら何でもしようという集団。私も、作り手の責任者である宮本(茂・専務)も、「僕らは芸術作品を作っているわけではない」「お客様に共感してもらって受け入れてもらってなんぼ」という商品を作っているんだと、繰り返し言っています。

みんなもお客様に受け入れてもらえなかったら負けということが浸透しているので、共感してもらうことに徹底的にこだわっているのです。お客様のニーズやウォンツが変化していけば、それに合わせてわれわれも変わらないと、そもそも共感していただけない。

だから、作り方を変えたというよりは、同じ作り方だけどお客様のニーズやウォンツが変わったので、われわれの作り方も変わったようにみえるのではないでしょうか。

――作る思い込みが強すぎると、求められるものから外れてしまうこともありませんか。

ある意味、クリエーションというのはエゴイズムの表現。モノを作るエネルギーが強い人ほど自分が信じる何か、“これがいいと俺が信じる力”からスタートする。自分の思いも強くて、こうするのが正しいはずだ、こうするのがお客様にとってもいいはずなんだ、というところから始まる。

だけど、モノをつくる最終的な目的は、人に共感してもらって受け入れてもらうこと。自分の初志を貫き通すだけではだめなんです。お客様に受けてなんぼということは、自分が仮説を持って提案しても、それがお客様に理解してもらえないとわかったら、理解してもらうことのほうが重要なので、発想を転換すべきなんです。

「陥穽はどこにでもある」

そこで弊社の商品開発のプロセスのなかには、補正をかける段階を用意しています。商品開発に関与していなかった別の部門の人、テスティング専門の部署の人にゲームに対するいろんなフィードバックを必ず聞く。

正直、人間ですから自分が強い思いを持って、よかれと思って作ったことを否定されると、嫌だし、不快だし……、言葉はよくないが何様のつもりだと(笑)、コメントを読んだ瞬間、頭に血が上ったりもする。だけど、お客様は本来、そういうものなんです。一人ひとり違う価値観と感覚と、重要性とでその商品と向き合ってくださる。その商品のターゲットになりうるお客様のうち、一人でも多くの人に共感してもらうために、ここは直したほうがよいと思ったら直すのが正しいのです。なので作り手が思い込みにはまり込んでしまわないようにと、いつも注意をしています。

(撮影:ヒラオカスタジオ)

※連載第2回(中)は7月31日に公開予定です

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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