「経済成長は不可欠」という神話が国を滅ぼす チェコの奇才が教える成長より大事なもの

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多くの人が、経済成長できなかったらおしまいだ、崩壊だと思い込んでいます。そんなこと、どこに書いてありますか? 聖書に? 空に? 数学モデルに? そんなことが過去に証明されたことがありましたか? その認識は間違いです。経済が必ず成長するというのは、愚直な思い込みです。

聖書の話をします。3500年前の、人類初の景気循環の話です。現在の景気循環を考えるために、人類史上最も古い景気循環の際に人々がどうしたかを見る。それが私の手法です。

エジプトの話です。ファラオが夢を見た。夢には7頭のよく肥えた牛と7頭のやせ細った牛が出てきた。夢判断ができないファラオは、ヘブライ人の預言者ヨセフを呼び、夢の意味を尋ねます。ヨセフは言います。「7年の豊作の後に7年の飢饉が訪れるでしょう」。

ファラオは対策を尋ねます。ヨセフの助言はこうです。「豊作の年は、収穫したものをすべて消費してしまうのではなく、貯めておくことです」。財政政策に似ていますね。ファラオは助言に従いました。そして、飢饉が訪れたとき、倉庫いっぱいに蓄えられた穀物のおかげでエジプトは苦境を乗り越えることができた。ファラオが見た夢は人類初のマクロ経済予測だったのです。

毎日晴れという甘い前提では良い船は造れない

トーマス・セドラチェク/1977年生まれ。チェコ共和国の経済学者。同国が運営する最大の商業銀行の1つであるCSOBで、マクロ経済担当のチーフストラテジストを務める。チェコ共和国国家経済会議の前メンバー。プラハ・カレル大学在学中の24歳のときに、初代大統領ヴァーツラフ・ハヴェルの経済アドバイザーとなる。神話、歴史、哲学などの切り口から経済学のあり方を問い直した『善と悪の経済学』は、15カ国語に翻訳され、世界中で話題を呼んでいる(写真提供:NHK)

この話を分析する方法はたくさんあります。いちばん興味深い解釈はこうです。人類は、現在の苦境よりもはるかに深刻で痛みを伴う飢饉という危機を、一銭の借金もせずに乗り切った。現在では想像もできないことです。そのような選択肢は検討されることすらない。

旧約聖書にも書かれているとおり、景気は昔からつねに上下変動を繰り返してきました。毎年毎年、成長を続けるのは無理です。そんなことはいまだかつてない。にもかかわらず、多くの人が成長し続けないと経済は崩壊すると思い込んでいます。

経済が成長し続けるものだという前提で、経済活動を行ったり、政策を立案したりするのは、毎日順風が吹くという甘い前提で船を造るようなものです。それでは良い船は造れない。なぎでも嵐でもうまく航行できるのが良い船でしょう。天候に恵まれるに越したことはないですが、毎日の好天を前提にすれば、風雨に立ち往生する船しか造れません。

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