「経済成長は不可欠」という神話が国を滅ぼす チェコの奇才が教える成長より大事なもの
ですから、何を信じるかがとても重要です。もし、民主資本主義の本質的な意義は「自由」にあるという最初の説を信じていれば、成長しなくても、マイナス成長ですら問題ない。なぜなら、私たちが信じるのは民主主義であり、資本所有の自由だからです。が、残念なことに、そうはなっていない。私たちは知らず知らずのうちに「成長資本主義」に取りつかれてしまっているのです。
経済が成長しないのはこれ以上成長する必要がないから
安田:成長への執着をなくすにはどうしたらよいのでしょうか? 特に先進国では成長が当然というのは共通認識になっています。人々のマインドを変えるのは難しく、時間もかかると思います。
私は、日本の若い世代がヒントになるかもしれないと思っています。生活満足度の統計では、10代から20代前半の若い世代で満足度が高くなっています。これは仮説にすぎませんが、日本の若い世代は経済のゼロ成長やマイナス成長に慣れているため、期待値が低くなっていて、成長への執着がないのかもしれません。
セドラチェク:そうかもしれませんね。これも仮説ですが、日本が成長できないのは、優秀な経済学者がいないからではない。むしろ日本の教育は世界トップレベルなのに、それでも成長ができない。その理由としてひとつ考えられるのは、皆がアイパッドを2台持っていて3台目はタダでも欲しくないような状況にあること。つまり、「黄金の天井」説です。
その説を信じるかどうかは重要ではありません。重要なのは、「黄金の天井」説が正しいとすれば、なぜそれを「悪いこと」だと思うのかということです。見方を変えれば、これは資本主義の終着点に到達したということですよ。
もうすべて手に入れた。誰も欲しがらないものを作っても意味がないから、そんなに働かなくてもいい。1度きりの人生なのに、誰も欲しがらない物を作るラットレースを走り続けるのはばかげたことです。
私に言わせれば、これは「万歳!」と祝うべき瞬間です。でしょう? 経済が成長しないのは、これ以上成長する必要がないからなんですから。
鬱(うつ)状態を引き起こす最も一般的な引き金のひとつが目標の達成であることは、心理学や精神医学では常識です。ずっと結婚したいと思っていた女性と結婚できた。夢の職業に就けた。学生だったら、猛勉強して難しい試験に合格した途端に鬱状態に陥ったりする。
むなしくなってしまうんですね。達成してしまうと、目標がなくなってしまうからです。現在私たちが経験している資本主義の不況も、いわば成功の後の憂鬱のようなもので、もう見るべき夢がない状態なのかもしれません。
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