鴻海・郭会長が「サムスン潰し」に乗り出した 中国に巨大パネル工場作り、世界制覇へ一手
話を今年の春節(旧正月)前に戻そう。2016年の鴻海の業績は創業43年間で初の前年割れとなった。郭会長はすべての社員と株主に対して謝罪した。「いかなる失敗にも口実はない。各位に申し訳ない。私自信の指導力が足りなかった」。
2016年の鴻海の営業収入は4兆3500億台湾ドル(約16兆円)だった。これほどの規模があるのだから、さらに1%成長させるには400億台湾ドルも増やさなければならない。十分な規模の新たな市場がなければ、鴻海が必要とする成長を満足させることはできない。
将来を展望すると、鴻海が核心事業であるアセンブリ(組み立て)から一歩進んで、川上のキーパーツへの垂直統合へ向かわなければ、次の10年間の成長を支えることはできない。エレクトロニクス産業の中で、CPU(中央演算処理装置)、メモリー、液晶パネルは、3大キーパーツである。これを掌握することこそが郭会長の構想だ。CPUについては、ソフトバンクの創始者である孫正義氏とその傘下にある英ARMと合同で、深センに半導体設計センターを開設した。将来は半導体のウエハ工場に投資する可能性もあるという。
メモリーについては、東芝がフラッシュメモリー(NAND Flash)事業の売却を決定しており、郭会長はすでにその買収を「非常に真剣に考慮している」と表明している。東芝の技術とシェアは、トップのサムスンに次ぐものだからだ。
ただ、液晶パネルは、近年、中国での投資が相次いでおり、京東方と華星が工場建設を競い合っている。JPモルガンの予測では、中国で第10世代工場が2018年から相次いで稼働することによって、2018年、2019年には、供給過剰が発生する可能性があるという。郭会長はこうした状況にどう対応するのだろうか。
郭会長が液晶テレビとパネルに集中すれば、サムスンと正面からぶつかることになる。鴻海のサムスンに対する反感は、十数年前のEUにおけるカルテル問題ばかりでなく、サムスンの垂直統合による市場独占によって、何度も苦い思いをさせられたことにも原因がある。
「シャープのテレビを倍に成長させる」
現実的に見ると、サムスンは依然として、世界の液晶テレビのトップだ。市場調査機関Wits Viewの統計によると、2016年に世界の液晶テレビの出荷は2億2000万台で、サムスンと韓国のLGが1、2位を占めている。そのうち、サムスンが4801万台、シェア21.8%で、11年連続のトップだった。しかし、時間を2003年にまで戻してみると、当時のトップはシャープ。世界金融危機以降、シャープのランクは急速に下落し、今では上位10社にも入らない。
郭会長はその栄光を取り戻すため、「今年シャープのテレビを倍に成長させる」という最高指示を発している。もし、シャープが世界3位内に復帰できれば、サムスンにプレッシャーをかけることができる。2016年12月、郭会長は市場価格の1.5倍で、堺ディスプレイプロダクトのすべての液晶パネルを買い取った。この行動にはサムスンが慌てた。サムスンは急きょ、他のメーカーから調達せざるをえなかった。同時にシャープによる供給停止を不当だと訴えた。
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