日本人の英語習得、二重のハンディキャップ 「効率的」な教育ではカバーできない部分と、言語としての「遠さ」

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音楽の世界にも見えた中国系の活躍

ちょうど前回の連載がアップロードされる頃、地元のトロント交響楽団のコンサートに行って参りました。

順番が前後しますが、まず2曲目、中国人のピアニスト、26歳のユジャ・ワン(Yuja Wang)さんをソリストに迎えての「ピアノ協奏曲第2番」(プロコフィエフ作曲)の紹介から。そのスレンダーな印象からは対照的なダイナミックな演奏スタイルで知られるワンさんですが、私が予想していたよりも更に躍動感のある演奏でした。

また締めに演奏された、こちらもロシアの作曲家リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」は、『千夜一夜物語』の語り手シェヘラザード王妃が解き放つ海の冒険の物語で、ハープの調べが聴く者を幻想の世界へと誘います。

著者撮影:オーケストラに誘われ“Treeship”の船旅へ

このコンサートの第1曲目は、トロント在住で1982年香港生まれの作曲家ケヴィン・ラウ(Kevin Lau)さんが今年、作曲した“Treeship”の世界初演でした。

およそ10分間の演奏の前に、作曲家自身の簡単な解説があり、当日のプログラムノートを手元に見ながら思い出しますと、題目の“Treeship”とは、“tree”と“ship”とを組み合わせた造語とのこと。一方で大地に根を張る“tree”、他方で未知の世界に繰り出そうとする“ship”。オーケストラがこの2つの対比的な世界を織り成します。私はとりわけ、船出を彷彿とさせる金管楽器の響きに魅せられました。

実は当日は、大学から徒歩でおよそ30分、やや急ぎ足の道中、トロントにはありがちな突然の夕立に見舞われました(辛うじて、折り畳み傘を持っておりましたが)。

ホメロスのオデュッセウスよろしく、びしょ濡れの服でホールにからがら辿り着くも、そこは愛しのペネロペの待つイサカではありません。オデュッセウスは再び“Treeship”の船旅に戻されたのです。

但しそれは、『オデュッセイア』のそれとは異なり、現実からのつかの間の休息という小さな小さな船旅、その乗客の一員としてでした。これを回想して今一首。

夕立を逃れし入れる幕屋これ
      交わり響き奏でる船かな

私が、『新古今』の「夏歌」の中で最も好きな「夕立の雲もとまらぬ夏の日のかたぶく山にひぐらしの声」(式子内親王)の本歌取りを狙ったつもりでしたが、随分と違ったものになってしまいました……。

さて、アジア系、アフリカ系、南米系、ヨーロッパ系。どの人種もドミナントではなく、程よくバランスが取れているトロントにあっても、休憩時間に館内をぶらぶらと歩けば、こと西洋古典音楽の鑑賞の場では、いわゆる「欧米」を感じることになります。その中にあって、ワンさん、ラウさんといった中国系の活躍は、政治経済の縮図を見る感があります。また、よく耳を澄ませば、中国語の発音もあちらから、また、こちらからも聞こえてきます。

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