日本人の英語習得、二重のハンディキャップ 「効率的」な教育ではカバーできない部分と、言語としての「遠さ」

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“Scare”というのは、「怖がらす」という意味の動詞で、使い方としては「驚かす」の“surprise”と似ています。“It’s surprising”あるいは“I’m surprised”とは言っても、“It’s surprised”とは言わないでしょう。

私は、「しまった。“It’s scared”ではなくて、“It’s scary”か“I’m scared”と言うべきだった」と瞬間的に気づき、自分の英語を責めました。

しかし、ほかでもありません。私は、図書館証を受け取り、カウンターから遠ざかるにつれて、それは名も知らぬ人からの、お金では買うことのできない誕生日プレゼントを一足早くもらった瞬間でもあったことに気づいたのです。

「言語の壁」は、言語によってしか越えることはできない。あるいは越えられないかもしれない。しかし、それは気持ちを通じ合わせるときの「人間同士の壁」とはならないはずです。彼女の何気ない一言は、未だ惑うこと多く、そして年をひとつ重ねてもまだ惑い続けるであろう私にとって、この夏の貴重な思い出となることでしょう。そのすべてを翻訳することはできないのかもしれませんが、その根本には人間共通の何らかの「普遍性」があるのではないでしょうか。

トロントのsummerが爽やかである理由は、その緯度の高さだけではない。そして、それは、“summer”と「夏」の違いを超えた何ものかではないか。私はそう考えています。

 

著者撮影:雄大なナイアガラの滝にて。次回は8月の更新を予定しています


 

安達 貴教 経済学者

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あだち たかのり / Takanori Adachi

京都大学経営管理大学院准教授。Ph.D.(米ペンシルヴェニア大学)。著書『データとモデルの実践ミクロ経済学』(慶應義塾大学出版会)が近刊の予定。

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