医療者の場合、外来や病棟などで感染者と接触する機会があります。自分が感染してしまうだけではなく、他の患者への感染源になる可能性もあります。がんや呼吸器、腎臓、心臓、肝臓などの疾患を持つ患者、糖尿病などで入院する患者は感染すると重症化しやすく、命取りになりかねません。そのため、院内感染の防止は医療者の第1の努めであり、医療の現場で働く者は清潔を保つことが要求されます。
看護師や救急外来での医師などが長袖ではなく半袖の上着を身に着けるのも、機敏に動くためだけではなく、袖口などが感染源にならないようにという意味があります。
関連して、最近、看護師が「ナースキャップ」と呼ばれる帽子をつけていないことを知っていますか。実は、ナースキャップが院内感染の感染源になりうるという報告があり、多くの病院で廃止されたのです。ナースキャップは白でしたから、白だから清潔というわけではないことは言うまでもありません。細菌やウイルスが付いていても、当然ながらわからないのです。
そしてもちろん、医療者が自分の身を守るという目的もあります。診療中には、血液や排泄物、咳や痰などが飛び散ってしまう機会があり、自身が菌やウイルスに感染してしまうのを防ぐ必要があります。患者と接触することのない研究者がラボコートと呼ばれる実験衣(白衣)を着ているのも、化学薬品などが不着することから身を守るという目的があります。
さらに、ユニホームの役割も果たします。医療機関の中では、そこの職員であるのか否か、どのような職種であるかを明示することが要求されます。職種が判別できるように名札でしっかりと示せばよいと考えることもできますが、一見してわかる身なりをしていたほうがやはり、一目瞭然となるので好まれるのでしょう。
最近、医学生の臨床実習が始まる前に、白衣式という儀式が各地の医学部で始まっています。臨床に携わるプロフェッショナルとしての意識づけ、倫理観を持たせるための儀式です。このように白衣を着ることにより、着る者の意識も変わるし、患者側の印象も変わるのです。
病院に行くと血圧が高くなる?「白衣高血圧」の正体
こうして医師の象徴ともいうべき白衣ですが、かつて意識的に白衣を脱いで患者を診る医師もいました。医療のパターナリズム(父権主義)が問題になり、白衣が医師の権威の象徴のように言われた時期があったからです。
「白衣高血圧」という病態があります。家庭で測定する血圧は高くないが、診療所や病院で医師に測られると高く出てしまう病態です。実際は、白衣そのものの効果ではなく、そう頻繁に訪れることのない診療室で、緊張して測定されるという状況下で血圧が上がってしまう結果です。白衣はそのような状況を象徴する言葉として使われているのです。白衣高血圧の人は、診察室外の廊下におかれた自動血圧測定器で自己測定しても高く出てしまいます。現在では、診療室でたまに測定する血圧より、自宅で毎日測定した血圧を重視したほうがよいと高血圧治療ガイドラインにも述べられているのです。
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