医者の着る服は「白衣が最善」とは限らない 今後は現場によって多様化していく可能性も

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とはいえ、白衣の前では緊張してしまう、あまり話せなくなるという人がいることも確かです。そのため、小児科医などは子供に嫌われないようにと衣服に工夫を凝らす医師も多く、心療内科医や精神科医など心理的な問題を扱う医師では白衣を着ないという人がいます。

また、米国の有名病院であるメイヨークリニックでは、メイヨー兄弟が創設した頃より患者を尊重するためにと、医師は白衣を身に着けずスーツにネクタイなどフォーマルな服装をすることにしてきたのです。

患者は医者にどのような服装を望むのか?

それでは、患者は医師の白衣姿をどのようにとらえているのでしょうか。2005年に、米国サウスカロライナ医学校のレーマン医師らは、内科医としてどのような服装が好まれるかという興味深い研究を報告しています。

(1)スーツとネクタイのビジネススタイル、(2)ネクタイをした白衣スタイル、(3)外科の手術衣(スクラブ)、(4)ジーンズとTシャツのカジュアルウエアの4つのタイプの衣服を着た男性(または女性)・白人(または黒人)の医師の写真を見せ、内科外来に来た患者にどう感じるかをアンケート調査したのです。

救急外来を想定した質問では、スクラブスタイルがやや多くなり(32%)、ビジネススタイルは少ない(2.5%)という傾向がありました。心理的な問題で話し合いたいときには、白衣スタイルが68%とやや少なくなり、ビジネススタイルが17%と多くなります。ただ、全体の結果を見ると、やはり白衣スタイルが好ましいと答える患者が圧倒的に多かった(60〜80%台)のです。特に女性医師と黒人医師では、より白衣が選ばれる傾向がありました。

どの医師が信頼できるか(アドバイスに従いたいか、診断や治療を信頼するか、フォローアップに来たいか)という質問に対しても、80%以上が白衣スタイルと回答しました。どの医師が、知識があり有能か、ケアする心があり慈悲心に富むか、責任感があるか、権威がありコントロールできているかなどの質問でも、75%が白衣スタイルを選んでいます。このように、白衣を着ることが医師の信頼感を高めると、患者の側も思っていることがうかがえる結果でした。

上記の調査は、2005年に報告されたサウスカロライナという地域の内科外来で行われた調査でしたが、その後、フロリダ州マイアミの皮膚科外来での調査が2016年の米国医師会雑誌(JAMA)に報告されました。ここでもやはり、白衣が73%と最も好まれ、19%が外科スクラブ、6%がビジネススタイル、2%がカジュアルスタイルという順番でした。

集中治療室での医師の服装に関しては、カナダ、カルガリー大学のステルフォックス医師らによる調査が報告されています。知識がある、有能だと思う、ケアする心がある、全体としての印象、以上の項目で、白衣とスクラブがビジネスやカジュアルに比べてより高い頻度で選ばれています。サウスカロライナの内科外来の調査に比べると、集中治療室ではスクラブが選ばれる率が高くなっています。「知識があると思う服装」の質問で、白衣が55%と高く、スクラブが20%。「能力があると思う服装」の質問では、スクラブが45%、白衣が40%と逆転しています。白衣が知識の象徴であり、スクラブは現場での活動度に対する印象が強いのでしょうが、全体としては集中治療室においても白衣が53%と最も好まれるという調査でした。

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