ベテラン弁護士が「相続で争うな」というワケ 「カネと引き替えに失うもの」が大きすぎる

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その後、結局、弟さんは独立し、別会社を設立しました。創業当初は順調に経営していたのですが、何年か後、取引先の倒産に遭い、不渡りを出してしまいそうになったのです。

そのとき、相談したお兄さんは、すぐに助けてくれました。そのおかげで、弟さんは不渡りを出さずに済んだのです。

もし、お父さんが亡くなったときに相続争いをしていたら、お兄さんはいざというときに助けてくれなかったでしょう。お兄さんも、お父さんから引き継いだ会社を維持していくことができなかったかもしれません。

結果として、その後、お兄さんの会社も弟さんの会社も順調に成長することができたのです。

「争わない」ことがいちばん

私は47年間の弁護士生活の中で、いくつもの遺産相続問題を見てきました。この例のように争うことなく穏やかに解決した場合は、長い目で見ると、とてもいい結果に収まっているケースがほとんどです。

逆に、幾多の人生を見てきてつくづくと感じるのは、遺産相続に限らず「争っていいことは何もない」ということです。

なぜなら、争うことで運が悪くなるからです。

たとえば、訴訟に勝って大金を手に入れたところで、運を悪くしては何にもなりません。実際、争いで手に入れたおカネはすぐに失うことになりがちです。私は弁護士として、そのような転落をうんざりするほど見てきました。

仏教で因果応報(いんがおうほう)という言葉がありますが、その言葉を実感するような出来事が本当に多いのです。不思議な話のようですが、多くの方もそのように実感されているのではないでしょうか。

人生は良いときばかりが続くとは限りません。必ず山あり谷ありです。長い人生においては、好調さから一転して、自分が助けてほしいと願うような場面も出てくるものなのです。

そのとき頼りになるのは、大切な家族や親族であり、本当の友達です。いざというときに頼りになる大事な“セーフティネット”ということもできるでしょう。

でも、相続で争った兄弟・親族は、助け合ったり頼りにしたりすることができません。相続以外の「争い」も同様に、かけがえのない大切なものをなくしてしまっていることが多いのです。

人生を長い目で考えて、何が幸運を呼ぶのかよくよく考えていただきたいと思います。

争いは、ないほうがいい。これが、47年間弁護士を続けてきた私の経験則なのです。

西中 務 弁護士

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にしなか つとむ / Tsutomu Nishinaka

1942年大阪市淀川区生まれ。大阪府立北野高校、大阪大学法学部を卒業後、会社勤務を経て25歳で司法試験に合格。以来、半世紀近く弁護士として、民事、刑事のさまざまな事件を経験。依頼者はのべ1万人を超える。本書で紹介する出来事をきっかけに、弁護士でありながら「争わない生き方」の重要性を痛感。人との縁を大切に考え、毎年出す暑中見舞いと年賀状は2万枚にのぼる。現在はエートス法律事務所に所属。社会貢献活動として、法律事務所の1階をセミナールームとして無料で一般に貸しているほか、老人ホームでの傾聴ボランティアなども行っている。「いのちの電話」の相談員も10年間務めた。著書に『ベテラン弁護士の「争わない生き方」が道を拓く』(ぱる出版)がある。

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