ベテラン弁護士が「相続で争うな」というワケ 「カネと引き替えに失うもの」が大きすぎる

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しかし現実には、うまく収まることばかりではありません。財産にどうしても目がくらむからか、それとも、兄弟同士や親戚同士は長年の確執が生まれやすいのか、私の話になかなか耳を傾けてくれないケースも、ままあります。

でも、自分の主張を強硬にとおして多くの財産を手にしても、長い人生で考えると、かえって運を落としてしまうケースも多いのです。

土地と相続をめぐる伯母とのトラブル

私がかかわった遺産相続争いなのですが、運の良しあしという意味で見ると、典型的なケースがありました。

この案件での私の依頼人は、大阪の小さな町工場の経営者でした。祖母の遺産を相続するときにトラブルとなりました。もともと、祖母は工場関係の資産の一部を所有していて、祖母が亡くなったとき依頼人と同様に、依頼人の伯母(故人の娘)にも相続権があり、それが原因でもめたのです。

問題となったのは、工場敷地内の土地でした。ちょうど工場の出入り口にあたる200坪ほどの土地が祖母の所有になっていて、伯母が依頼人と同等の相続権を主張しました。

この土地の相続について、法的には、依頼人と伯母の双方に同等の権利がありました。祖母は遺言を残してなかったので、法定相続人が遺産をもらうことになります。伯母は故人の子供ですから法定相続人です。また、依頼人の父親も故人の子供で同じ権利を持つのですが、すでに亡くなっているため、権利は孫である依頼人にそのまま引き継がれます。ちなみに、これは代襲(だいしゅう)相続と呼ばれます。

つまり、問題の土地は、依頼人と伯母とが半々で相続する権利を持つわけです。

けれど、土地の半分を伯母に渡してしまうと、依頼人は工場を経営している立場ですから、出入り口として使えなくなります。そこで、土地はすべて依頼人に譲ってもらい、かわりに相続分に当たるおカネを支払うことを伯母に提案したのです。

ところが、相手方である伯母は、依頼者の足元を見るような態度を取りました。

「あんたは、あの土地が欲しいんやろ。それやったら、おカネをもっと出してもらわんと」

そう言って、辺りの地価の倍の金額を要求したのです。

私は代理人として、言葉を尽くして説得しましたが無駄でした。結局、依頼人は苦しい経営の中、法外な金額を何とか用意して、土地を確保するしかありませんでした。

当然、依頼人は、伯母に対して怒りに近い感情を持つようになり、以来、付き合いも途絶えたそうです。

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