「修羅場」に放り込むと人は劇的に伸びる ANA社員の「思い切って任せる」仕組み
ただし、任せていたから失敗したという結果が許されないのは言うまでもありません。「責任が取れる範囲で任せる」ことが必要です。そのうえで最後まで任せきるためには、任せる側も成長し続けて、「責任が取れる範囲」をより大きく広げていくことが大切なのです。
「修羅場」こそ後輩に任せる
空港でお客様の搭乗手続きや空港利用者への案内などの業務にあたるグランドスタッフにも、任せる仕組みがあります。それは「イレギュラー時のリーダー任命」です。
空港センター旅客サービスチームで全空港の国内線グランドスタッフのインストラクターを務める平池愉美子は、実際に後輩をリーダーに任命し、現場を任せてきました。
「通常、グランドスタッフ一人ひとりに、カウンターやゲートなどの持ち場がありますが、飛行機が大幅に遅れて到着したり、到着地が変更されたときなどには、対応の指揮を若手グランドスタッフにお願いするようにしています。現場のリーダーとして、役割分担や業務指示など、1人でチームを仕切ってもらうのです」
もちろん通常業務でも、若手スタッフが持ち場の責任者役を務めることはありますが、あえてイレギュラーのときに指揮を任せます。
「台風で運航ダイヤが乱れたとか、ある空港行きの飛行機が天候不良で別の空港に着陸することになった、といったイレギュラーの事態は、毎日起こるわけではありません。しかし、そのようなときの対応こそが、私たちグランドスタッフの腕の見せどころです。今後の見通しを立てたり、振り替え便の手配などを適切に行う必要がありますが、空港オペレーションが混乱しているときですから、うまくいかず、お客様からのお叱りを受けることもあります。初めて経験するスタッフには、かなり困難な経験だと思います」
空港センター旅客サービスチームで全空港の国際線グランドスタッフのインストラクターを務める上部真理は、自分が後輩側の立場のとき、まさに「困難な経験」をしたと言います。
「入社2年目くらいの頃ですが、出入国に関する手続きで、大失敗をしたことがありました。自分のミスでお客様にも到着地空港にもご迷惑をおかけしてしまい、当時の私は仕事も手につかないくらい、ものすごく落ち込んでいました。すると当時の上司から、自分が失敗した案件について、同僚と失敗した内容を共有し、理解を深めるための『勉強会』のセッティングをするよう勧められたのです」
自分の失敗について自ら講義することになった上部は、「なぜ、よりによって私なの?」と思ったと言います。