「修羅場」に放り込むと人は劇的に伸びる ANA社員の「思い切って任せる」仕組み
ANAでは、副操縦士を機長に育てるときに、「機長とまったく同じ仕事をさせる=代行させる」方法をとっています。これを「機長見習い( PUS :Pilot Under Supervision)」といいます。フライト前、天気図を見て飛行計画を立てるところから、フライト後のクルー解散まで、全行程において、副操縦士は機長として振る舞います。
この「機長見習い」は、副操縦士が機長になるために、最低180時間は経験するというルールになっています。副操縦士が「今回は機長見習いをやらせてください」と機長に意思を伝えることもありますし、機長から「今日は機長見習いをやってみるか」と促すこともあります。
CAたちの間でも、「ポジションリクエスト」という仕組みがあります。チーフパーサー(機内サービスの責任者)になることを目指しているCAが、「今回はチーフパーサー代行をリクエストします」と事前に願い出て、機内アナウンスや保安業務など、すべての業務をチーフパーサーの代わりに行います。
「代行」のメリット
30年以上客室センターに在籍するCAで、ANAビジネスソリューション人材・研修事業部副部長の石山由美香は、「代行」のメリットを次のように話します。
「普段は少し頼りなさを感じるCAでも、代行でチーフパーサーになりきると、一気に成長することがあります。現場に放り込まれて役割を体験することによって、隠れた能力やそれまでの積み重ねが発揮され、できたことは自信になります。逆にできなかったことは次への課題として自己認識します。できたことによる自信と、できなかったことの克服を繰り返すことで、一歩一歩、目標に近づいていくのです」
ただし、「代行」させていても、あくまで責任者は機長であり、チーフパーサーです。「安全」に影響する可能性があるときには、ただちに「代行」を解き、機長、チーフパーサーが指揮・命令を行います。
「代行」の仕組みは、他の業種・業界でも使えます。たとえば、
・次の会議の司会・進行役を後輩に代行させる
・クライアントへの次のプレゼンテーションを後輩に代行させる
・新しいプロジェクトのリーダーを後輩に代行させる
など、あらゆる場面で応用できるでしょう。
ポイントは、一部分を任せるのではなく、最初から最後までを任せきること。途中で起こったトラブルの処理や人間関係の調整なども含めて、手や口を出してはいけません。途中で後輩を「管理したい気持ち」をぐっと抑えるようにしましょう。