米国の経常赤字は巨額でやはり見過ごせない トランプ大統領の観点とは別の重要な問題

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対外純資産の増減は長期的に見れば経常収支によって左右される。個人の資産を考えてみればわかりやすい。毎年末の資産額は株価や住宅価格次第で大きく変動するが、長期的に見れば毎年の所得から支出を差し引いた残りで貯蓄ができたかどうかに依存している。国が海外に保有している資産や負債の残高も、株価や地価、為替レートの動きで変動するが、経常収支の黒字・赤字こそ対外純資産が増減する主要因だ。

米国経済は1980年代に入ってからは経常収支の赤字基調が続いており、21世紀に入ってからは赤字の規模が拡大している。長年にわたって大幅な経常収支赤字を続けてきたために、米国は対外債務が対外資産を上回る純債務国となっている。しかも純債務の規模は名目GDP比で40%という規模に達している。

米国が財政赤字を拡大させれば経常赤字も拡大

トランプ大統領は、大幅な減税や大規模なインフラ投資を経済政策に掲げている。これはレーガノミクスを想起させる政策内容だ。1980年代前半の米国では、大幅な財政赤字が発生すると同時に経常収支赤字が拡大するという、双子の赤字問題が深刻となった。

経常収支の赤字拡大をもたらした直接の原因は、インフレを防止するために当時のボルカーFRB(連邦準備制度理事会)議長が採用した金融引き締め政策によるドル高だった。ムニューチン財務長官は過去の財務長官と同様に「長期的には強いドルが重要だ」としているが、トランプ大統領は貿易赤字縮小の観点から、ドル高を牽制する発言を繰り返していて、FRBの利上げを遅らせようとするかもしれない。

トランプ大統領が掲げているインフラ投資による財政支出の拡大や大幅減税による歳入の減少を相殺するような歳出削減が行われるとは考えにくいので、貯蓄投資バランスから考えると、財政赤字が膨張することはほぼ確実だ。財政刺激により好調な経済の中で企業の設備投資が落ち込んだり、消費が減退したりすることは考えにくいので、財政赤字の拡大は経常収支の赤字拡大をもたらすはずだ。

経済は好調なので、イエレンFRB議長がトランプ大統領の圧力をはねのけて緩やかながら着実に利上げを続ければ、内外の金利差が拡大してドル高が起こり、輸出の抑制と輸入の促進を通じて経常収支の赤字が拡大するはずだ。

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