トランプ政権の政策で、最も不利益を被るのは中国だ。
第一に、中国にとって最大の輸出先である米国で国境税調整が実施されれば、中国経済にとっては明らかにマイナスとなる。中国の輸出先として、米国のシェアは現在17%と、国としてはトップである。地域としては欧州連合(EU)の16%がこれに続くが、その米国で中国のすべての製品に対して事実上一律20%の関税が課されるとなれば、中国の輸出には多大なインパクトを与えよう。中国経済にはようやく回復の兆しが見えつつあるが、再び腰折れするようなら投資家心理を冷やす要因となるだろう。
第二に、トランプ政権になって初めての「為替報告書」が4月に公表されるが、ここで米財務省がはたして中国を「為替操作国」に認定するかどうかにも警戒したい。トランプ大統領は選挙中、繰り返し「中国を為替操作国に認定する」としてきた。中国は現在、資本流出に歯止めをかけようと人民元「買い」介入を実施しており、このため中国の外貨準備高は減少し続けている。自国通貨買いを行っている国を「通貨安誘導で為替操作国に認定する」のは現実的ではないが、今回の報告書で中国と韓国を為替操作国に認定するのではないかとの報道も一部にある。万一そのような事態になれば、一時的とはいえ、人民元の急騰とともに円高が進行する公算が大きい。
第三に、米国の利上げによって一段とドル高が進行した場合、対ドルで人民元安が加速すれば、中国からの大規模な資本流出を促す可能性がある点だ。1月末時点の中国の外貨準備高が3兆ドルを割り込んだが、このまま減少し続ける中で人民元安・ドル高が進行した場合には、「中国当局は人民元相場をコントロールできていないのではないか」「中国からの資本流出に歯止めがかからなくなるのではないか」といった懸念がクローズアップされ、2015年8月に見られたような中国株の急落につながる可能性も捨てきれない。この場合、2015年もそうだったように、リスクオフによって一時的とはいえドル円でも円高が進行する可能性はあるだろう。
円高進行時には対策が限られることに注意
日本のリスクは、上述したような円高に歯止めをかける策が明確には見当たらないことだ。円高が進行したからといって円売り介入に踏み切れば、それこそ日本が「為替操作国」となる。では、日本銀行が追加緩和をできるかというと、マイナス金利の深掘りや、10年債利回りのターゲット引き下げなどは、日本の金融株にマイナスの影響を与える可能性が高く、実施しにくいのが実情だ。では量的緩和の拡大に踏み切るかといえば、国債の買い入れに限界があるからこそイールドカーブ・コントロールを導入したにもかかわらず、再び「金利」から「量」に政策の軸足をシフトさせることは、政策の持続性を考えれば困難だろう。
足元、米国のインフレと日本のイールドカーブ・コントロールが奏功し、ドル円は堅調地合いを保っている。この流れは基本的に変わらないと見ており、ドル円は2月中は110~115円のレンジ相場を続けたあと、予算教書などトランプ政権の財政政策が公表されれば、期待インフレ率の上昇とともに緩やかに115円を超えるだろう。ただ、万一海外の政治要因や何らかのショックで急速に円高が進行し、100円を割り込むなどした際に、日本政府や日銀が講じられる対策が限られる点には、注意しておくべきかもしれない。
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