反知性社会だからこそ真の「知識人」が必要だ 声の大きい「王様」の好きにさせてはいけない

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──コンピュータを使ったのは早かったそうですね。

知識の整理のため、ファイルにすることがあってももちろんいい。それにはデジタルな技術、コンピュータが有用だ。インターネットは便利だし、重要だから駆使している。もうなしでは済まない。行った先で見たものについては写真データや動画にすればいい。労力をなるべく使わないという原理原則から言えば、IT(情報技術)を使うに限る。合理的に手抜きができ、そのうえ質のいい仕事ができる。

僕はワープロで書いた小説で芥川賞をもらった最初の作家。よく使ってきていて、実際今も原稿を手で書くことはない。この年齢のわりにはITを使い慣れしている。

知識人の責務

──反知性がいわれる今こそ「知の仕事術」が大事なのですね。

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ここ数年来の世間全体の風潮だ。知識人はごく当たり前のように、物事に対して知識を集めて論理的に分析し、その先の展開を予想する。その基本には人権思想がある。決して世の中を知識人がリードしたわけでないが、言うことに一定の重みがあった。それがガタガタと崩れてしまった。むしろ感情的反発を買う。いちばんいい例がトランプ大統領であり、知識と理性ではなくて、ひたすら感情だけで物事を決めていく。

知識人は何の権力もない。民主主義の国だから、主権在民であって、国民全体が王様。知識人はその顧問の一人にすぎない。たとえばほかの国と仲が悪くなり強気で行こうとしたときに、そっと耳元で「一応お含みおきください」として、「昔そういうことになったとき強気で行ったら戦争になってしまった」と、用意したメッセージを王様に伝えるのが知識人だった。

王様の国民は最近とみにこの顧問の言うことを聞かなくなった。「小うるさいことを言うな。物を知っているからと威張るんじゃねー、引っ込んでいろ」という感じが強くなってきた。世の風潮だから仕方がないが、知識人は黙るわけにはいかない。聞いてくれないにしても、その場その場でリポートを作って、王様に差し出す。それが右であれ左であれ知識人の責務だ。そのために「知の仕事術」は大事なのだ。

──ご自身の製品としてはどうなりますか。

今まで人間が積み上げてきたことの中から、この場で役に立つアドバイスをどう抽出するか、どう整理するか、どう文章にして手渡すか。その意味でも、文学全集を手掛けながらも小説を書きたかった。月刊誌の連載を1冊に仕上げ、この3月に『キトラボックス』を出すし、秋には新聞連載小説も始める。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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