反知性社会だからこそ真の「知識人」が必要だ

声の大きい「王様」の好きにさせてはいけない

池澤 夏樹(いけざわ なつき)/1945年生まれ。小説、書評、翻訳などの分野で活躍。ギリシャ、沖縄、フランスに滞在し、世界的な視野で作品を発表。『スティル・ライフ』で芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、『パレオマニア』で桑原武夫学芸賞を受賞。個人編集で『世界文学全集』に続き、『日本文学全集』を刊行中(撮影:今井康一)

──「知の仕事術」が必要と。

僕の仕事はまず状況を知るために新聞を読む。その時々の世間と世界の見取り図を頭の中に作るうえで、新聞は極めて役に立つ。

テレビはどうしたって情報が散漫で、まだるっこしい。生のニュースが圧縮された形でパッと目に見える全体が欲しい。インターネットでは見出しが並んでいるだけで、相互の位置関係やニュースバリューがわからないし。それに比べ、新聞は朝開いて見ていくと、自然と今日における見取り図ができてくる。昨日、1週間前、そして昨年の見取り図は頭にそれなりに残っているから、積み重ねていくと、世の中の変化の軌跡が描ける。

知識はほとんどが本の形でまとめられているものだ。本は1つの思想や見識をひとまずまとめて人に伝えるのにちょうどいいサイズなのだ。雑誌記事では瞬間での応答としては早いが、それだけでは不十分だ。少し大きなテーマになると、分厚い本にしなければいけない。だから次いで、本の探し方、選び方、読み方が大事になってくる。

いらないものは手放す

──本は手元にたまってしまいませんか。

なるべく残さない。この間、仕事のうえで参考にした既刊の『日本文学全集』の類いも役割を終えたら、ほとんどが本棚から去る。そうせずに残しておくと、遺族が困ることになる。亡くなった人のものだと思うと手が付けられない。本人だったら処分できる。

もともと具体物としての書物をあまり愛さないたちだ。書評で書いた本は、そこで役目が終わったのだからもういらない。製品の資料は、書いて校閲が入ってゲラになり、本が出たら大体いらない。いらないものは手放す。

──定期的に新聞、雑誌に書評をお書きです。

書評用に献本もあるが、それを残しておいても意味はない。手放しを躊躇なくできるのは、古本マーケットが電子化されたからだ。これはありがたい。昔は手放すと二度と会えないかもしれなかった。言ってみれば自分の本棚にインがあってアウトもあって、その流れの中で日々更新していくことになる。

それとは別に、どうしても手放せない本は確かにある。昔、大好きになり、翻訳して実際本になって、仕事のスタートになった原書類。また中身をよく知っているが、自身の人生のモニュメントとして大事なものもある。ただ、それらもなるべく膨らませないようにしている。

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