20代女性が吉原「遊郭専門書店」に集う理由

現代社会の不況・貧困問題が影響している?

都市の未来よりも、都市の過去、ずっと生きながらえてきた小さな空間。恐竜が滅びてもゴキブリが滅びなかったように、巨大な近代建築よりも小さくたくましく生きる人間たちがつくる猥雑で有機的で生命のある場所。そうしたものへの関心が無意識のうちに高まったのではあるまいか。そういう時代感覚の分析はいくらでもできる。

カストリ書房では、シャレの効いたネーミングのせっけん「吉原ソープ」も販売している。こうしたグッズは「遊郭女子」入門者に人気(撮影:今井康一)

だが実は私は、やはり格差とか貧困の問題が遊郭に惹かれる女性たちの心の根底にはあるのではないかと思っていた。しかし、いきなり渡辺さんにそう聞くと、文化的な現象と経済情勢を安易に結びつけることを嫌がられるかと思って質問しなかった。だが、渡辺さんの方から「貧困とか不況とか少子化というものも絡んでいるだろうと思う」との発言があった。

「倫理観も変化しているし、セックスワークに対する女性の考え方も変化している。不況のためになかなかお金を得られないために、そうした仕事をしている女性たちがいることを一般の女性も知っているし、自分の身の回りにもいるわけです。セックスワークをしている女性たちも自分たちの考えをSNSや出版でも発信していて、それは中学生の女子でも知りうる。じゃあ、こういう働き方を自分はできるのか、と考える機会も増える。ちょっと調べれば、昔は遊女がたくさんいたことはわかるし」(渡辺氏)

貧困女子が性風俗で働くことをレポートした本も売れている。学費を払うために、それこそ吉原のような風俗街で働く女子学生も多いという内容だ。

さらに、渡辺さんは少し違う見方もする。「遊郭があった時代のほうが日本は勢いがあって、商店街もにぎやかだった。ところが今は産業が空洞化したり、少子化で人口が減ったりで、商店街はシャッター街。遊女たちの哀しい歴史というのはたしかにあるけど、明るい面、たくましい面、文化的な面もあったということに目が向き始めたのではないか」。

“遊郭好き女子”「魅力は窓がかわいいこと」

私にはたまたま遊郭が好きな女性の知人がいるので、遊郭の魅力を彼女に聞いてみた。

Hさん(29歳)は、東京の会社に勤める女性。近年、全国の遊郭跡を訪ね歩いている。すでに50カ所に行った。「いちばん印象的なのは京都の五条楽園。次が尾道。3番目は難しいですが、豊橋かな。愛知県が全般にいいです。建築的に派手というか、面白い」。

遊郭跡には、今でも美しい建物が残る。写真は愛知県・名古屋市の「中村遊郭」跡周辺の建物(撮影:筆者)

Hさんは大学で日本文学を学び、そこで樋口一葉や吉原に関心をもった。課題のレポートで遊郭建築について書いたこともある。それから建築を学び、しばらく遊郭のことは忘れていた。ところが数年前「誰かがツイッターで飛田新地のことを書いていたんです。料亭の写真に惹かれました。それがきっかけで自分でも遊郭跡を回るようになったんです」。

遊郭の魅力は「窓がかわいい。タイルも。見れば見るほど好きなところが増えます」。タイル好きの人というのはいる。窓が好き、手すりが好き、という一種のフェティシズムも確実に存在する。そうした欲求を総合的に満たしてくれるのが遊郭建築らしい。

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