こうした一連の流れと関連して、2016年、戦後すぐに発行されたカストリ雑誌や、遊郭関連の本の復刻本などを出版するカストリ出版という個人出版社が、吉原のソープ街のすぐ脇に「カストリ書房」を開店し、話題を呼んでいる。運営するのは、IT企業出身で30代の渡辺豪さんだ。
女子には「どろどろしたものを求める気分」がある?
渡辺さんによると、カストリ書房に来る客は、なんと6、7割が女性であり、年齢は20〜30代と若いという。中学生の女子生徒にもファンがいる。
「何かどろどろしたものを求める気分が僕の中にはあるんですが、それは来店する女性たちにもある気がします。怖い物見たさというか……。
僕は旅行が好きで全国を回っていたのですが、するとしばしば各地に不思議な魅力的な場所がある。何だろうと思って調べてみると、昔遊郭があった場所だとわかった。それで全国の遊郭を調べてそれらを訪ね歩いてSNSで発信しはじめたんですが、その情報に反応してくるのは女性が多かったのです。だから、(カストリ書房にも)女性客が多いことは当初から想定していました」(渡辺氏)
なぜだろう。映画の『吉原炎上』とか、漫画の『さくらん』とか、春画展とか、女性が遊郭に関心をもつきっかけは最近継続してあった(2015年に東京の永青文庫で開催された「春画展」も、若い女性客が多かったことで話題になった)。
「女性のほうがレバーを食べる、男性はあまり食べない」という本連載前回インタビューでの女性の発言もあったが、男性のほうが今は、動物的、肉体的なものと距離があるということではないか。
女性は毎月いやでも自分が動物であることを肉体で実感する。対して男性のほうがパソコンやゲームなどのデジタルなものや人工的なものだけに浸って生きてしまいがちだ。生活全体のデジタル化に生理的に満足できない、リアルさを求める心理が女性のほうでより強いということかもしれない。
また、昭和のレトロな看板がいいよねとか、昔の喫茶店やスナックが好きだとかというブームはずっとある。都築響一の『天国は水割りの味がする-東京スナック魅酒乱-』の発行が2010年、同『東京スナック飲みある記』『演歌よ今夜も有難う』が2011年、東京の下町のディープな魅力を深掘りした『東京右半分』が2012年の発行だ。下町的な庶民的な泥臭さや一種のキッチュさが面白いと思われる心理が広がっていた。『ブルータス』がスナックを特集したり(2015年11月15日号)、JpopのJUJUが『スナックJUJU』というアルバムを出したりもしている(2016年)。
こうした風潮の背景には、少し大げさだが、1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災の影響もあるのではないか。人々がずっと信じてきた近代的な都市計画が、地震によって予想もしない崩壊をしたこと。そのころが、当時青少年だった世代に、都市に対するイメージの何らかの変容をもたらしたのではないか。
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