トランプ赤字は世界経済の腰を折りかねない 積極財政のための借り入れ増は金利急騰招く

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しかし、2000年代初頭にはそれどころではなくなった。ジョージ・W・ブッシュ政権が再び減税に走り、無謀な戦争に踏み切ったことで財政赤字が再び膨れ上がったからだ。

そして、共和党が優勢な議会と民主党のオバマ大統領が、国家財政をめぐる対立を最も激化させた2012年には、共和党のミット・ロムニー大統領候補が、減税と軍事支出増によって、信じられないほどの規模の財政赤字を出すことを盛り込んだ経済計画を提案した。

政権交代に伴ってこのように赤字が急増することは防げるのか。米英のような成熟した民主主義国家では、債務の増加に苦しめられた記憶が強いため、政府債務の対GDP(国内総生産)比をなるべく抑制しようとする力が定期的に働く。

しかし米英においてすら、財政赤字は教科書どおりの景気対策によって生じるわけではない。政権課題のうち何を優先するかという激しい政治的駆け引きの産物なのである。

どの程度の景気刺激が妥当なのかは、長らく論争の中心となってきた。最近まで左派の経済評論家の多くは、米国は大胆な景気刺激策を行うべきだと主張していたが、彼らはトランプ氏の当選を機に立場を一転させている。国家債務と景気刺激策との妥協点をどのあたりにすべきなのかは、誰にもわからない。

金利急騰による世界的なリスクも

そのバランスを見極めるには、債務の水準だけではなく、長期債務と短期債務のバランスをどう取るかといった点も重要になってくる。トランプ時代に金利が上がれば、米政府は利払い負担の軽減を図って、債務のバランスを短期から長期へとシフトさせようとするだろう。

トランプ政権が巨額の借り入れを行えば世界的な金利急騰を招き、腰の弱いイタリアの財政や新興市場での企業による資金調達などに多大なる打撃を与えることになる。

米国経済が成長すれば多くの国が恩恵を受ける。とはいえ、政治的駆け引きの産物としての景気刺激策に偏るのはリスクが大きい。

週刊東洋経済2月4日号

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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