23歳女性が「美容師の夢」を捨てISと戦う理由 「私はいつでも死ぬ覚悟ができています」

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ダーシュによる攻撃を受ける前に撮影された数年前のデルシムの写真を何枚か見せてもらった。そこにはお洒落をした、どこにでもいそうな「普通」の女の子が写っていた。「いつかは美容師になりたいと思わない?」と聞いてみると、「いえ、まったく思っていません。私はシンガルとヤズディのためにいつでも死ぬ覚悟ができています」と力強く即答した。

2014年8月3日。シンガルに暮らすすべてのヤズディの人生がこの日を境に一変した。デルシムのような若い女性たちがPKKに訓練されていることを懸念するヤズディもいる。今も家族とシンガル山中で暮らすファハドさんは、PKKがヤズディの若者たちを訓練し、ヤズディとは関係ない地域での戦闘にも参加させ、多くの若者が命を落としていることを腹立たしく思っていた。「PKKはシンガルに平和が戻った後も、シンガルに居続けるのでしょうか?」と言う。

「私たちの聖地を守らなくてはいけない」

ファハドさんには、イラクを訪れる度に取材をさせていただいた。もともと教育部門を担当する公務員として議会で働いていたファハドさんは、話が上手で、ついつい聞き入ってしまうことが多かった。

現在もシンガル山で避難生活を送るファハドさん(右から2人目)一家。北麓から望む、夕暮れのシンガル山の前で(写真:筆者)
『ヤズディの祈り』(上の書影をクリックするとアマゾンの販売
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シンガル山の頂上でファハドさんと立ち話をしたとき、こう私に訴えたことがある。「シンガルはヤズディの土地です。ヤズディの映画が作られるとしたら最後のシーンに描かれるのは、ここシンガル山なのです。私は何があってもここから離れません……。私の友人はダーシュに殺害され、別の友人はダーシュの戦闘員になりました。2人ともイスラム教徒のアラブ人です。私はこれまで武器を持ってダーシュと闘ってきましたが、シンガルに平和が戻れば武器を置いて、普通の生活に戻りたいと思っています。この山は私たちの聖地で、仲間たちはここで殺され、ここに彼らの墓があるのです。だからこそ、守らなければなりません。シンガルで起きたことを伝えてください。メディアの力は武器よりも強いのです 」。

林 典子 フォトジャーナリスト

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はやし のりこ / Noriko Hayashi

国際関係学、紛争・平和構築学を専攻していた大学時代に西アフリカのガンビア共和国を訪れ、地元新聞社「The Point」紙で写真を撮り始める。以降、国内外の社会問題やジェンダー等に焦点を当て、写真と言葉でひとりひとりの生と記憶を伝える活動をしている。著書に『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳─いま,この世界の片隅で』(岩波新書)、写真集『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある。2012年DAYS 国際フォトジャーナリズム大賞、2013年フランス世界報道写真祭ビザ・プール・リマージュ「報道写真特集部門」Visa d’Or(金賞)、2014年NPPA全米報道写真家協会Best of Photojournalism「現代社会問題組写真部門」1位など受賞。英ロンドンのフォトエージェンシー「Panos Pictures」所属。HPはこちら
 

 

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