23歳女性が「美容師の夢」を捨てISと戦う理由 「私はいつでも死ぬ覚悟ができています」
取材がなかなか進まず、ハサンの家で待機をしているときは、4歳になるハサンの長男ユーシフがお気に入りだという日本のアニメ、「ワンピース」や「コナン」のDVDをパソコンで繰り返し見ることもあった。
そして毎日、自然と眠くなる夜の12時頃に床に布団を敷きみんなで雑魚寝をした。ハサンの家族は決して裕福ではなかったが、8人の息子たち全員が英語を話すことができた。父親のアショールさんからしっかり勉強をするようにといつも言われていたからだという。
ハサン一家のように、シンガルからドホークに避難してきたヤズディが多くいる一方で、故郷を追われて分け入ったシンガルの山中で暮らし続けているヤズディも数万人いる。山の北麓は、2014年12月にダーシュから奪還され、山から脱出する機会があったはずだが、生活環境が厳しい山中をいまだ離れていないのだ。
美容師を目指していた「普通の女の子」は銃を持った
現在23歳のデルシムのその1人だ。「私の夢は美容師になり、お店を開くことでした。その夢をかなえるためにシンガル市の美容院で見習いとして働き始めた1カ月後の、2014年8月3日に、突然ダーシュが攻撃してきたのです」。デルシムは、靴を履かないまま慌てて家から飛び出し、シンガル山を目指して歩いた。山頂に到着したときには、のどが乾き疲れがたまっていた。
そのとき、山の頂上にあるヤズディのチャルメラ寺院付近で、シリアやトルコなどからやってきたPKK(クルディスタン労働者党)の女性兵士たちが、避難していたたくさんのヤズディに食べ物や飲み物を与えている姿を目にしたという。「女性兵士たちは武器を手に、迫り来るダーシュに応戦していたのです。そのときに、他の国の女性たちが私たちを守ってくれている。これからは私がシンガルを守らないと!と思ったのです」とデルシムは振り返る。
その後シンガル山で避難生活を続けたデルシムは、2014年10月19日に他の11人のヤズディ女性たちと一緒に女性部隊に入隊し、PKKの支援を受けながらシンガル山中の基地で暮らすようになった。今も、イラク国内やシリアでダーシュとの前線で闘っている。
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