外交に見識が欠かせないのは、もし国民レベルで互いの疑心に火が点けば、中国にとってもそれと敵対する国にとっても得のない戦いに発展し、しかも一度始めたら双方がやめられない惨劇につながりかねないからである。
疑心を前提とした国際社会では、関係の破壊がたやすい反面、一度こじらせたら関係修復が容易ではないことも、見識が不可欠になる大きな理由だ。
CNNの2016年12月3日の記事によると、トランプ氏と蔡英文の電話会談は、保守系シンクタンクのヘリテージ財団に所属し、トランプ氏の政権移行チームの助言役・スティーブン・イエーツ氏の手配によるものだという。
米国の外交にとっても「諸刃の剣」
この危うさは、コネチカット州選出の上院議員(民主党)クリス・マーフィーがツイッターで「戦争はそうやって始まる。もし転換ではなく、奇をてらっただけだとしても、我が国の立場を信じられなくなった同盟国は離れていくだろう。どう転んでもひどい結果だ」投稿したことからもわかる。
中国は前述のように、それを重大な問題とは受け止めていない。この問題を伝えたCCTVの番組では、「トランプ氏は中国のことも外交も知らない」と繰り返した。その言外には、大統領となり見識の縛りを受ければ、自然に解決する問題と考えていることが伝わってくる。
要するに外交素人だということだが、それは彼が、電話会談 と武器購入の実績を同列にしていることからもうかがえる。さらに顕著なのは、それとほぼ同じ時期にツイッターに投稿された以下の書き込みである。
「中国が(米企業の競争が厳しくなる)通貨切り下げや、中国に入る米国製品への重い課税(米国は中国に課税していない)、南シナ海の真ん中での大規模な軍事複合施設の建設を、われわれに了解を求めてきただろうか。そうは思わない」
南シナ海問題で大規模な軍事施設をつくるのは、領有権を争う国々にとって問題だが、本来、米国の了解が必要なものではないだろう。このトランプ氏の一言は、たしかに米国の本音である。しかし、オバマ政権がフィリピンと中国という対立の構図を演出しつつ、その背後で巧妙に自国の利益拡大をはかってきた、その慎重さを根底からぶち壊してしまう一言でもあったのだ。
中国と領有権を争う他の東南アジアの国々にしても、こんな風にあからさまに米国の次期大統領が発言すれば、今後の同海域での米国の動きを警戒しないはずはない。
従来の見識に縛られないトランプ氏は、今後も中国を戸惑わせる発信を続けることになるかもしれないが、それは米国外交にとってもダメージを与える両刃の剣となるのかもしれない。
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