トランプ次期大統領の閣僚人事の全体像がみえてきた。安全保障分野では中東政策通を重用し、イスラム過激派との対決姿勢を鮮明にしたトランプだが、12月13日、国務長官にはエクソン・モービルCEOのレックス・ティラーソンを指名すると発表した。
元経営者の登用はファストフードチェーンのCKEレストランツCEOであるアンディー・パズダーの労働長官指名に続くものだが、現地のワシントン・ポストは同日、「Ayn Rand-acolyte Donald Trump stacks his cabinet with fellow objectivists」と題するコラムにおいてこれらの人事にはある傾向があると指摘した。ティラーソン、パズダー、そしてCIA長官に起用されるマイク・ポンペオら、トランプ政権は、アメリカの政治思想家アイン・ランドの信奉者で閣僚人事を固めつつある、というのだ。
あらためて「アイン・ランド」とは何者なのか
日本では、ほぼ無名であるアイン・ランドとは何者なのか。ここであらためて説明しておこう。
ランドは、1905年から1982年を生きた作家、政治思想家。資本主義だけが道徳的な政治経済制度であり、政府の役割は防衛と治安、司法制度の維持だけと説いた。のちのリバタリアニズム運動に大きな影響を与えた人物だ。実際は、グローバル経済における国家の役割をふたたび拡大しようとするトランプ自身の政治思想はランドの思想に近いとはいえない。選挙期間中に彼女の作品のファンであることを明かしてはいるが、単なるファンに過ぎないともいえる。
一方、閣僚候補たちは別だ。ランドの代表作『肩をすくめるアトラス』を愛読書とするティラーソン、「暇があれば読んでいる」パズダー、同じく『肩をすくめるアトラス』に大きく影響されたポンペオらは、ランド思想を体現し、実践するリバタリアンたちといえる。
近年の米国政治におけるアイン・ランドとリバタリアニズムの影響については、2015年の共和党予備選についての記事(日本人が知らないアメリカ的政治思想の正体)でも書いたが、今回の大統領選挙では、アイン・ランド信奉者のテッド・クルーズ、ランド・ポールらが次々と敗れ、リバタリアン党のゲイリー・ジョンソン候補の支持率も低迷し、この米国的自由思想はいったん敗北したかにみえた。
だがトランプ大統領が誕生し、その政権のメンバーを眺めると、いつのまにか、ランド好きのリバタリアンにとってはドリームチームともいえるような布陣になっている。
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