(4)ビジネスの世界でいう準拠法(Governing Law)の取り扱いについて。準拠法とは、どこの国の法律を基準とするかを取り決める条項である。大体において問題が起こった場合は、国家によって解釈が違うからよく揉めるのだが、日本人はこの準拠法を軽く考えがちなのに対して、ロシア人は深刻に考える。
(5)紛争の解決について。日本人は性善説に立って「紛争が起こることはあまり想定していない」のに対して、ロシア人は紛争解決のためにはどこの機関を選択するのかを、常に真剣に考えている。
(6)契約の履行について。日本人は前出のように性善説で考えるから「ロシア側は正しく行動してくれるはずだ」と考える。だがロシア人は性悪説で考える。
日本人のほうがむしろロシア人より非常識!?
以上の6つが、私が日ごろからロシア企業との交渉や契約書締結時に注意している内容である。過去約30年間ロシア貿易を経験してきたはずだが、そこまで注意して成約したつもりでいても、いまだに考え方の違いや文化の違いでトラブルに発展することがある。
「お前はロシアとつきあいが長いのをいいことに、ロシア側に立ちすぎているのではないか」とお叱りを受けるかもしれない。だが「以心伝心」で考えてしまう日本人のほうが国際的には非常識であり、ロシア側の交渉の発想は極めて常識的である。
実は、ロシア人の気質の中にも浪花節的な部分もあり、宴会でウォッカを飲みだすとお互いに気が大きくなり「まあまあ、なあなあ」になる場合もあるのだ。ところがロシア人は実際に契約を交わす段になると論理的かつ合理的になるのである。それは当然であろう。
もちろん、両国のビジネス交渉と外交交渉を同列で議論するわけにはいかない部分もある。だが、長年にわたってもめ続けている今回のような北方領土や平和条約の交渉、あるいは日露経済協力交渉ともなると、当然ながら両国とも「駆け引き」や「思い込み」や「考え方の違い」も出てくるのである。
代表的なのは、「返還」と「引き渡し」の違いである。日本側は1956年の日ソ共同宣言で、日本側は四島返還をベースに考えたが、ロシア側(当時のソ連)は「二島だけの引き渡し」と考えた。つまり「日本は取られたものを返してもらおうと長年考えていた」が、ロシア側は正式に戦勝国の権利として得た北方領土を「プレゼントする交渉だと考える」のである。
いろいろな意見もあると思うが、先日の東洋経済オンラインでの鈴木宗男氏のインタビューにもあるように、吉田茂首相の時代、サンフランシスコ講和条約で、北方領土については、「歯舞と色丹は別にして、国後と択捉はロシア領である」と事実上日本はいったん諦めたのである。
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