長寿化に応じた「長く働ける社会」が必要だ 働く意欲のある高齢者が増えている

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人生が長くなったのに、働く期間は以前と同じで生活を支えられるという、うまい話があるはずがない。長い人生に見合った期間だけ働かなくては生活が維持できないのは当たり前だ。

ライフ・シフトは、「30年長く生きられるが、20年長く働かなくてはならない。これは恩恵と言えるのか?それとも、厄災というべきなのか?」と自問しているが、働かないで生活できる期間が10年も延びるのだから考えるまでもなく大きな幸運ではないか。働くことに対する意識は、洋の東西では大きく異なっている。高齢になったら働きたくないと考える欧米諸国に比べて、高齢者に働く意欲がある日本は高齢化に対応するには非常に恵まれた条件にある。

農林水産業従事者や商店などの自営業者の比率が低下してきたために、70歳以上の男性を見ると労働力人口(働く意欲と能力のある人)比率は緩やかな低下傾向にある。しかし、60〜65歳の層では高年齢者雇用安定法の制定や改正の効果による労働力人口比率の上昇がみられる。同法の直接の効果がない65〜70歳の層でも労働力人口比率は反転して上昇し始めている。日本では、働く場所さえ提供されれば、もっと多くの高齢者が働こうとするだろう。

勤務時間や出勤スタイルの柔軟化を

もちろん、ライフ・シフトが指摘するような人生100年時代の働き方は、現在の勤労フェーズをそのまま長くすればよいという、単純なものではない。日本の対応は、最初は就職から定年退職までの間を、そのまま引き延ばすものだった。しかしこの結果、昔に比べると課長や部長などの役職に到達する年齢は上昇しており、これがさらに遅くなることは若い世代の勤労意欲を阻害してしまう。

同じ職場で引退まで働き続けるという単線的な働き方が中心では、制度は維持できなくなるのではないか。昔に比べれば同じ年齢でも体力などが向上しているとはいっても、ほとんどの人が、若い人達と同じように働くことは難しくなる。高齢者が働き続けるためには、勤務時間の短縮や週休3日や隔日出勤など柔軟な働き方ができるようにする必要もある。

長期化した人生に対応して、より長い期間働けるようにする。健康な高齢者が働いて自らの生活を支える社会システムを作る。高齢化対策は、まず課題をはっきりと設定することが重要ではないか。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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