「EU崩壊」などは近視眼的な妄想に過ぎない ヨーロッパは昔からいつもたいへんだった

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2017年春の大統領選へ向けて動き出したルペン国民戦線党首(中央)、仲間とクリスマスマーケットに繰り出した(写真:ロイター/アフロ)

12月4日、イタリアの国民投票はレンツィ首相(当時、12日にはジェンティローニ氏が外相から首相に就任)にノーを突きつけた。賛成41%、反対59%の大差でレンツィ首相の憲法改正提案を拒否し、首相は辞任した。首相の憲法改正提案に、反EU・脱ユーロを主張するポピュリスト政党「五つ星運動」が激しく反対した。そのためか、わが国では、イタリアの首相敗北はポピュリズム運動の勝利、というような解釈の論調も見受けられる。Brexit(ブレグジット・英国のEUからの離脱)や「トランプ勝利」の連想かもしれない。

だが、よく見てみると、そうでないことが分かる。

イタリア国民は民主主義の健全さを示した

レンツィ首相は、選挙で勝利した民主党のレッタ前首相に改革能力がないと批判して退陣させ、代わって首相の座をまだ39歳の若さで射止めた。そのため、民主党やほかの主要政党の重鎮たちから嫌われ、ベルルスコーニ元首相と連携するなど変則的な運営だった。政策も冴えず、若者の失業率40%超の経済は改善しなかった。

イタリア憲法は、ファシズムに陥ったイタリアの歴史を反省して、行政府に対する議会の権限を強め、しかも下院と上院がほとんど同権をもつ。首相は事実上の一院制に転換して効率を引き上げたいとしたのだが、ポピュリズム政党の伸張する時代に、むしろこちらのほうが危険な企てでもあった。選挙の洗礼も受けずにイタリア史を変えかねない憲法改正を国民投票にかけるなど、無謀でもあった。

投票では、18歳~34歳層の81%が反対投票、ほとんどすべての州で敗北した。主要政党のリーダーたちやその下の組織、知識人層の多くも反対票を投じた。

同じ12月4日のオーストリア大統領選挙での極右候補の敗北・親EU候補の勝利(得票率53.3%)とともに、ヨーロッパの民主主義の健全さを示した。とはいえ、イタリアでは銀行危機が進行中で、こちらは速やかな救済行動が不可欠だ。新内閣に期待しよう。

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