「EU崩壊」などは近視眼的な妄想に過ぎない ヨーロッパは昔からいつもたいへんだった

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Brexit、ギリシャ問題、イタリアの銀行危機など休む間もない危機の連続を見ていると、「EU崩壊」などと妄想したくもなろう。だが、欧州はいつも大変だった。第2次大戦後、旧ソビエト連邦が欧州の「不都合な」部分を囲い込んでくれて、パンドラの箱が閉まった。だが、西ヨーロッパだけで動けた幸福な時代はもう過ぎ去った。今、本来のヨーロッパに戻ったのである。

まだEUと加盟国はその状況に慣れていない。徐々に危機を抑制できる制度作りと資金の手当てをしていかないといけない。20世紀の理想的な欧州統合の印象が強すぎて、そこを基準に考えるから「EU崩壊」という意見になるが、もっと余裕を持って見る必要があろう。

それにしても、フランスの大統領選挙は気がかりだ。フランスまでが極右ポピュリスト政権になれば、EUの危機はBrexitどころではない。フランス国民の政治的英知を期待しよう。5月にフィヨン氏が首尾よく大統領になり、秋に第4次メルケル政権が選出されれば、具体的な対策へと進むであろう。
 

田中 素香 東北大学名誉教授

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たなか そこう / Soko Tanaka

1945年福岡県生まれ。1971年、九州大学大学院経済学研究科修士課程修了。経済学博士。東北大学大学院経済学研究科教授、中央大学経済学部教授を経て、現在、東北大学名誉教授、中央大学経済研究所客員研究員。専攻はヨーロッパ経済論、経済統合論。著書に『世界経済・金融危機とヨーロッパ』(編著、勁草書房)、『検証・金融危機と世界経済―危機後の課題と展望』(共編著、勁草書房)、『拡大するユーロ経済圏―その強さとひずみを検証する』(日本経済新聞出版社)、『ユーロ その衝撃とゆくえ』(岩波新書)、『ユーロ 危機の中の統一通貨』(岩波新書)、『ユーロ危機とギリシャ反乱』(岩波新書)など。

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